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氷の致死量

著者:櫛木理宇



私立・聖ヨキアム学院中等部に赴任した鹿原十和子。彼女は、14年前、この学院で殺害された戸川更紗に似ている、と言われ続け、その事件に興味を持つ。そして、その中で、更紗は、自分と同じアセクシュアル(無性愛者)ではないかと考え始める。一方、連続殺人鬼の八木沼は新たな犠牲者を解体していた。その犠牲者は、十和子が担任を受け持つ生徒の母親。更紗に対し、今なお特別な執着を持つ八木沼は、十和子に目を付け……
「普通」って何だろう? そんなことを考えさせられる物語だった。
LGBTとか、そういうのがテーマになった作品は最近多いのだけど、本作のテーマもその一つ。昔から、男女とか関係なく、恋愛感情などを抱くことなく暮らしていた十和子。ただ、母親からは「こうするのが良い」と言われ、その願いの通りに教職に就き、そして、結婚をした。結婚をして、子供を育てるのが当然ということで……。しかし、その相手に対しても愛情を抱けず、言われたのが「氷を抱いているよう」。現在は完全に別居状態。そんな状況の中、自分に似ているという更紗もまた、自分と同じだったのではないかと思うように。
そして、その更紗の夫との出会いの中、性的マイノリティの集会に参加することになり……
恋愛をするのが当然。結婚をするのが当然。子供を育てるのが当然。親など、周囲の人間から見たときの「普通」。しかし、その「普通」に馴染めない心苦しさ。しかも、例えば、自分はこうなのだ、という自覚を持っていればまだしも、何か馴染めないけど、やはりその「普通」が当然である、という刷り込みをされているが故の葛藤。それが、同様の悩みを持つ者と出会って……。この辺りの思い、というのはすごくリアルだと思う。
一方の八木沼。こちらはこちらで、かなり歪んでいる。学生時代、「聖女」と呼ばれていた更紗。そんな彼女を慕い、一方でロクデナシの母親を持った、それゆえに歪んだ感情を抱くようになった八木沼。そして、その歪みから女性を殺して回るようになり……。こちらは、かなり猟奇的な描写とかもあるのだけど、ただ、やはり「普通」とか、親とかに関しての問題というのは共通している。そして、それ故に十和子に目をつけるようになって……
正直なところ、十和子、八木沼の間の接点とかが強引な感じはするし、400頁超という分量ではあるものの、これらの要素を描くにあたっては分量不足じゃないか、と思うところはある。その辺りは気になるのだけど、「普通」を巡っての葛藤とか、そういう部分は非常に読みごたえがあった。

No.6278

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Tag:小説感想櫛木理宇

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