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エナメル その謎は彼女の暇つぶし

著者:彩藤アザミ



事故で寝たきりにとなった富豪の娘・甘宮メル。彼女は天才的な探偵の素質を持っている。そして、そんな彼女に献身的に付き従う江名。二人は一見、誰もが認める純愛カップルに見えるのだが……
という二人が謎を解いていく連作短編集。前4編を収録。
物語の形としては、江名が見聞きした不思議な出来事。それを病院でメルが聞いて謎を解く、という安楽椅子探偵形式(作中では、安楽寝台探偵などと言っているが)
1編目『ヒロインが病気で死んじゃう小説なんて燃やしちまえよ』。江名の通う高校の文芸部で、部誌が何者かに汚されてしまう、という事件が発生。その部には、ライトノベル作家として活躍している、という賞所が在籍していた。そして、その少女と小説の内容について対立していた、という少年もいて……
謎解きそのものはかなりオーソドックスなものだと思うのだけど、むしろ、そのあとで語られる部分が印象的。それまでのエピソードの中で伏線になっていた、と思われたものが明かされて……と思ったら、それをすべて容赦なくぶち壊す。ある意味、元も子もない現実。その容赦のなさが、この作品集のカラーを示しているように感じた。
3編目『コピーキャット・プシキャット』。メルの入院している病院で起きる幽霊騒動の顛末。
江名にとって、年上の頼れるお姉さんが、年月を経ての状況。そんな状況を明らかにして、というメルの推理の切れ。こちらも後味が悪い形で終わるのだけど、その上での真相。……ある意味で、八つ当たりのような追及をされてしまう犯人が気の毒になるようなエピソードでもあった。
そして、4編目。メルが現状になってしまった原因となる事故の真相。
事故を巡っての背景のひどさ。そして、その中で、江名がとった行動と、それが導いた結果。作中でも江名が、ひたすらに罪悪感を出し、メルが江名にぶつかるシーンが明らかになっているのだけど、その真相は……。江名の行動は間違っていたとも言えない。でも、それは……。作中にトロッコ問題の例が出ているけどまさにそんな感じ。その中での江名とメルの関係性……。苦くはあるけど、これも一つのハッピーエンドなのかも。
どちらかというと、謎解きそのものよりも、江名とメルの関係性。その中の愛憎入り混じった感情。そこを中心に読むべき物語なのだろうな。

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Tag:小説感想新潮文庫nex彩藤アザミ

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