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ハロー・グッドバイ 東京バンドワゴン

著者:小路幸也



東京の下町に軒を構える古書店・東京バンドワゴン。そこでの出来事を描くシリーズ第17作。
昨年に刊行された『グッバイ・イエロー・ブリック・ロード』が、研人、我南人らがイギリスに行っての騒動を描く番外編だったので、東京での物語を描く本編という意味では2年ぶり。
『春』。向かいの田町家が解体され、新たな家の建設工事が始まる中、東京バンドワゴンにも業者の人々が。そんな中には、事故で入社が1年遅れてしまった、という新人の久田さんが。方向音痴であるが、しかし、ダウジングなども得意という彼女だが、ある時、行方不明なってしまい……
このエピソードの中でカフェの夜間営業が始まったりとかっていうのがあるけど、物語のカギとなる久田さんの行方不明事件は、と凶バンドワゴンの過去、秘密などを見せたもの。話は綺麗な形で終わるのだけど、相変わらず、色々と機密文書があるとか、そういう部分は匂わせつつも軽く触れるだけってカラーは変わらないなぁ……と。
『夏』。本格的に夜間営業を始めたバンドワゴンのカフェコーナー。それは予想外に好評で売り上げも上々。そんな中、古書店の方で売っている本に千円札が挟まれた形で見つかる、ということが相次いで……。カフェに残された本。その本のタイトル、作家に何かヒントがあるのではないか? なんていうミステリー的に考察をしたりしてみるものの、しかし……
ミステリー読みとしては、かなり拍子抜けな真相ではある。でも、古書店とかの店頭に置かれた(ある意味で、採算度外視の)特売品と、それを目の当たりにしての出来心。そこから生じる罪悪感。それを、我南人の昔の仲間のエピソードと絡めてまとめ上げたのは素直にうまいな、と感じた。
『冬』。年末を迎え、年越しのための準備が進む堀田家。そんな多忙な中、イギリスに住むマードックから電話が。その内容は……
このシリーズの恒例である別れのエピソード。ただ、今回のエピソードは別れのエピソード、というだけでなく、再会のエピソードでもある。もともと、母親の介護のために渡英したマードック夫妻。その母親が……。確かにそれは悲しいこと。でも、できることはでき、きちんとお別れをすることができた。そして、残された父親が息子であるマードックへ伝えたこと。
自分の今後のことはしっかりと決まっている。一人でも問題がない。一方で、マードックはすでに日本に大切な家族が出来ている。ならば、マードックがすべきことは……。この親父さんの言葉、すごく格好いいな、という思いを何よりも感じた。

No.6301

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Tag:小説感想小路幸也

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