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ネメシスの契約

著者:吉田恭教



夕刊紙の記者・周防正孝は、実父が8年前に起こした事件の真相を追っていた。それは、新潟県の漁港で釣りをしていた元最高裁判事を殺害し、自らも拳銃自殺を遂げた、というもの。DVを繰り返していた実父が事件を越したことは不思議ではないが、自殺が腑に落ちないため。一方、厚労省職員の向井俊介は入院中に急死した証券会社職員は医療事故ではないかという依頼を受け、調査を開始する。そのころ、東京、目黒川で行方不明になっていた人権派弁護士の息子の他殺体が発見される……
著者のデビュー2作目。デビュー作の『変若水』もかなり色々と詰め込んでいたのだけど、こちらも負けずに詰め込んできたな、という印象。
物語は複数の視点で綴られる(粗筋では書かなかったが、目黒川の事件を追う刑事視点もある)のだけど、中心となるのは厚労省職員の向井視点かな?
半ば押し付けられるような形で始めた調査。それを調べる中で、過去に同様の事件が起きていたことが判明。そして、ニュースで報じられる情報などから、過去、裁判により無罪判決が出された事件の関係者が不可解な死を遂げていた、ということが明らかになっていく。そして、そんな中で記者である正孝とも協力関係になっていくのだが、その中で異質なのは新潟で起こった事件……
新潟で起きた事件については、埠頭の先端部分にいた被害者の首がはねられた。その埠頭には他にも釣り客がおり、先端部分に行ったのは自殺した正孝の実父のみ。だからこそ、犯人と言われているのだが、自殺した際には拳銃を使っているのになぜ、事件は首を切る、という殺し方なのか? という謎が。さらに、その事件の前、この漁師町で起きていた不可解な事件……と、本格モノの展開。
その一方で、物語は刑事裁判についての問題だったり、医療事故に関する問題だったりと、社会問題と言えるような要素も物語に加わってくる。さらに、この作品の特徴として、新潟の事件の不可能犯罪のトリックを解き明かしても、それだけでは犯人が特定できない、という部分も。様々な要素を詰め込み、それらが混然一体となっているからこそ、最後までどう着地するのかわからない形で物語を進めていくのは素直にすごいと思う。エンタメ性抜群。
ただ、その一方で、結構、主人公の俊介の探偵っぷりが冴え過ぎているような感じはしたかな? と。些細なところから「もしかしたら?」と思いつく、というのはミステリ作品のあるあるなのだけど、本作の場合、その「もしからした?」→「その通りだった」みたいなのが何度も繰り返されるため、ちょっと上手くいきすぎではないか? と思えた部分があったりする。完全に重箱の隅をつつくようなもの、とはいえ。
それでも、繰り返しになるけど様々な要素を詰め込み、最後まで飽きさせないで、というのは見事の一言。面白かった。

No.6302

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Tag:小説感想吉田恭教

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