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揺籃の都 平家物語推理抄

著者:羽生飛鳥



1180年。平清盛は、上皇や、平家一門の反対を押し切って京から福原への遷都を強行する。清盛の息子たちは、再び京へ都を戻すことへの説得、そして、富士川の戦いの敗戦を報告するため、清盛邸を訪れる。だが、その屋敷では次々と怪事件が発生する。そんな中、清盛の命である青侍捕縛に失敗した清盛の弟・頼盛は、内通の疑いをもたれながらも事件解決に乗り出す……
『蝶として死す』の続編となる長編……というか、そちらに収録されたエピソードの2編目、3編目の間の時期に起きた事件を描いた物語。
同じシリーズにある物語ということもあるのだけど、物語の印象は似たような感じかな? 清盛邸で起こるのは、頼盛が取り逃し、清盛邸へと逃げ込んだ青侍がバラバラ死体で発見される。そのころ、館では怪鳥騒ぎが起こり、厩で飼われていた猿まで殺される。さらに……。
平安時代では、陰陽師とかの存在があったように、呪いだとか、怪物だとか、そういうものが当然のものという感覚があった。だからこそ、怪異の仕業という考え方もある中、あくまでも合理的な真相を求めて動く頼盛。その中で、怪異であるとか、密室殺人であるとかを合理的に問いていく様は、しっかりと本格ミステリとしての面白さがある。これだけでも、十分に面白い。
……のだけど、それ以上に清盛、その息子たちとのやり取りの中での、平家政権末期の雰囲気とでもいうべきものが印象的。
富士川の戦いでの敗戦。それも、正面から戦っての敗戦、とか、そういうならばまだしも、水鳥の羽音に驚いての不戦敗という恥ずかしい戦いの後。だというのにイマイチ、緊張感に欠ける清盛の息子たち。次期棟梁と言われる宗盛には覇気が感じられないお人よし。平和な時代ならともかく、戦乱の時代では物足りない。知盛は知恵などもは回るが、どこか危うい。そして、頼盛を常に疑い、敵愾心を露にする。そのような中、頼盛自身も、過去に兄から官職を解かれたりするなど、安泰とは言えず、対抗するしかない状況。頼盛自身、池殿流平家という一族の命運を握っているがゆえに……
敵対する源氏が勢いづいてる状況なのに、今なお、平家は安泰だと考え、一族内でのいがみ合いを起こす清盛の息子たち。そして、館で起きた事件の真相を解いたのちに、清盛が頼盛に告げたこと……
歴史を見ると、そして、前作を読んでも、頼盛がこの後、どうなったのか、というのが判明している。そして、その決断というがどういう経緯で起きたのか? そんなことを示唆する物語としても機能しているな、という風に感じた。

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Tag:小説感想羽生飛鳥

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