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フクロウ准教授の午睡

著者:伊与原新



学長選挙が迫る地方国立大。そんな大学に勤める常勤講師の吉川は、学生からアカハラを受けた、という告発を受ける。そんなバカな……。告発した学生は、大学院進学を巡って教授からアカハラを受けており、自分はその悩みを聞いていただけなのに……。何よりも、その学生同様、自分もまた、その教授からアカハラを受けている被害者同士のはずなのに……(『アカハラの罠』)
から始まる連作短編集。全5編を収録。
一応、各エピソードで問題などが起こり、その問題は解決する。しかし、それらは学長選挙とも関わっており、最終的にその学長選挙に集約されていくので全体を一つの物語と見ることもできる、という構成。
で、冒頭に粗筋を描いた1編目。そこで書いた通り、吉川は自分が講師を務める心理学の教授である首藤からアカハラを受けていて、別の大学への転職活動をしている状態。そして、被害を訴えた学生・砂原も……。どうせ自分は転職するつもり。そういう意識はあるものの、砂原の悩みに耳を傾け、励ましてきたはずだった。それなのになぜ? 砂原は音信不通になり、相談係になった袋井(通称・フクロウ)は冷たい態度。首藤は実態はアカハラ気質だが、それを知っているのは研究室関係者のみ。次の学長選の候補とも目されている。そんな状況で、どんどん追い詰められていった末に……。まず、このエピソードの段階で吉川さん、受難だなぁ……という感じ。
そして、その元凶である首藤に処分が下されて、の2編目以降……。ここからは、他の学部も含めて、学長選挙の候補とされるような教授の周辺での事件が起こり、吉川はそこに巻き込まれていく。……ここまでくると、ただの巻き込まれ体質という感じさえする。
それぞれのエピソードで起こる事件。その裏で何か動いている袋井。袋井は、その学長選挙に向け、何者かの意思を受けて暗躍している様子さえ見える。だが、一体、彼は何を求めているのか?
というところを中心に話が進んでいくのだけど、全体を通して感じるのは、がっつりと大学における学内政治という感じ。かつては名誉職的な役割でしかなかった学部長、学長といった地位。しかし、制度の変化などもあって予算配分だとかの権限を付与され、大きな権力に発展。しかも、少子化などの中で、その学長という地位になり、学部再編とかそういうところに行けば、研究者の居所などにも影響を及ぼしてしまう。
学長選挙、学部長選挙……。大学を舞台にした作品では、結構、この辺りのイザコザを描いた作品は多いのだけど、学生としての立場でしか大学に関わったことのない自分としては、そこまで大きいものなの? と距離を感じる部分があったのだけど、その背景というのが一部とは言え感じられたのがこの作品を読んでの収穫かな?
なぜ、袋井がそこまで色々な策略とかをできるような存在になったのか? とか、もうちょっと掘り下げられてもよかったかな? と思うところはあるけど、それが明らかにされないからこそ、ダークヒーロー的が……という爽快感にも繋がっているような気はする。ちょっと前に、某私立大学の理事長に権力が集中し、様々な不正が……っていう事件があったけど、そういうのを思い浮かべ、そこに袋井がいたら……。そんなことを思いながら読んで楽しめた。

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Tag:小説感想伊与原新

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