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ギニー・ファウル

著者:前川裕



大学教授であり、実録小説作家でもある稲本は、10年前に起きた「三鷹事件」と呼ばれる事件を題材とした作品を執筆していた。その事件とは、夫婦が失踪し、その周辺ではニセの刑事などが現れるなど、不可思議なことが続いた事件。そんな事件を調べる中、失踪した妻がマルチ商法に関与していたことを発見する。一方、稲本の勤めている大学では、悪質なネットワークビジネスに悩む学生からの相談を受け……
まず思ったのが、著者の作品の中では、比較的、主人公に感情移入しやすい作品だな、ということ。著者の作品の主人公って、大学教授という設定は多いのだけど、教え子などの若い女性に劣情を抱いたりとかして、「うーん」となることが多い。本作の稲本も、そういう部分がないわけではないのだけど、そこまで強調されていないのでそこまで気にならなかった。
タイトルでもあるギニー・ファウルとは、ホロホロ鳥のこと。事件の渦中にあるマルチ商法では、このホロホロ鳥を扱うという、ちょっと変わった格好で行われる。そして、そのホロホロ鳥を輸入している商社との関係性であるとか、はたまた、その業者が実際には宗教団体の様な様相を呈していた、など少しずつその繋がりが見えてくる。だが、そんな中、稲本が話を聞いた相手が不可解な死を遂げるなど、不審な事件も起こり始めていって……
ということで、マルチ商法とかが題材になっているのだけど、作中でもあるように、ある意味、マルチ商法と宗教って似た部分があるよな、というのを感じる。だって、客観的に考えて、ホロホロ鳥だろうが、石鹸だろうが、洗剤だろうがある程度の相場というのが決まっていて、それ以上に、なんていうのはおかしいはず。しかも、それを周囲に紹介すればランクが上がって……なんていうのは余計に。そこにあるのは、業者に対する信仰とか、そういうもの……。ちょうど、これを書いている現在(2022年8月)、某宗教団体の話が大きな話題になっているけど、似ているよな、というのはすごく感じた。その辺り、表紙やタイトルにも使われているホロホロ鳥という象徴がうまくこの気持ち悪さを象徴していると思う。
ただ、これまた悪い意味で著者らしさなのだけど、終盤は色々な要素が入りまくっているので、頭の中が色々とこんがらがってくる部分はある。かなり色々なものを詰め込みまくっているわけだし。
それでも、一応、すべての部分に決着をつけて、という点でも、著者の作品の中では読みやすい方……なのかもしれない。

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Tag:小説感想前川裕

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