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チョウセンアサガオの咲く夏

著者:柚月裕子



全11編のエピソードを収録した短編集。
この単行本の分量が230頁ほど。それで、11編だということでわかると思うが、ほとんどの作品が十数頁ほどの掌編となっている。
その中で、やはり一番、印象が強いのは1編目である表題作。
認知症かつ、半寝たきりの母親を介護する三津子。仕事もやめ、ただただ献身的な彼女に対し、幼いころからの知己で、かかりつけ医である平山らはただひたすら「えらい」と称賛する。母の世話をするのが何よりも幸せだが、田舎町の生活は孤独でもある。ふと思えば、自分が子供の頃、父は仕事勝ちで、母は同じような状況にあった。そして……。本当、十数頁しかなく、物語そのものも一幕劇。なのだけど、甲斐甲斐しく母親の介護をする主人公、母親。その関係性が劇的に変わってしまう、という鮮やかさは見事の一言。
オチは何となくわかるものの、という『原稿取り』。昭和時代、作品は売れるが遅筆な大作家の原稿を取りに行った編集者。しかし、その大事な原稿を……。読んでいるうちに、何となくこういう結末じゃないか、というのはわかるのだけど、2020年代の現代ではありえない出来事。その雰囲気が何よりも印象的。
『黙れおそ松』は、アニメ『おそ松さん』に関連して書かれた作品。これについては……物語の内容というか、著者がこういう作品を書く。それ自体が意外そのもの。佐方シリーズとか、『孤狼の血』などのシリーズが著者の代表作であり、シリアスな物語を描く人、というイメージを持っているだけに。
11編もの作品があり、しかも、作中の時代背景とか、そういうのもバラバラなので統一感はない。また、ちょっと「?」という作品がなかったわけでもないのだけど、そういうのも含めて著者の色々な引出しを見つけ出すことができた。

No.6324

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Tag:小説感想柚月裕子

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