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うまたん ウマ探偵ルイスの大穴推理

著者:東川篤哉



房総半島の田舎にある乗馬クラブで起きた殺人事件。遺体の頭には蹄鉄の跡が残っており、犯人はクラブの馬では? という疑惑が。しかし、その事件の夜、行方不明になったクラブ従業員が馬に乗って失踪した、という目撃証言が。近所に住む牧場の娘・陽子が首をかしげる中、彼女の家で飼っている元競走馬・ルイスの声が聞こえてきて……(『馬の耳に殺人』)
から始まる連作短編集。全5編を収録。
ちょっと前に読んだ『スクイッド壮の殺人』で著者久々の長編を読んだのだけど、再び本作は短編に。
今作は、探偵役が馬。関西馬だった、ということなのか、なぜかコテコテの関西弁。しかも、15歳馬……人間の年齢に直すと中年のおっさん、ということもあり、陽子とルイスの掛け合いとかが楽しい。そして、そんな設定ということもあり、競馬とかに関するアレコレを真相に入れた作品が印章に残った。
粗筋でも書いた1編目。このエピソードに関しては、目撃された証言がポイント。証言者は、まるで競馬のレースをするように走っていった。でも、その乗り方、というのは……。そもそも、その形でできるのか? というのは気になるところだけど、乗馬と競馬の乗り方の違いとか、そういうのは大きな違いがあるわけで、そこがポイントになる、というのが面白かった。
個人的に1番好きなのは2編目『馬も歩けば馬券に当たる』。最早、意味不明状態の牧牧場(陽子の実家の牧場)の求人に応募してきた青年・藤川。なんで、こんな意味不明な求人に? そう思った陽子だったが、その直前、大荒れになったレース結果を前に呆然とする藤川の姿が目撃されていて……
「借金がある」という藤川。だからこそ、というのはわかるが、藤川が言った金額と、その借主の言葉には違いがあって……。
これが「競馬あるある」と言えるかどうかは、とは思う。……いや、そうでもないか……。オグリキャップブームとかの頃、ド田舎に住んでおり、自分の父親が中央競馬の電話投票権を持っていて(当時、電話投票権を得るには抽選制で競争率が高かった)、大レースの時に知り合いから電話が多くかかってきていた、というのを目の当たりにしているので何かわかる。……でも、30年前の設定の方があっている気がしないでもない。
そして、その後日談と言える5編目『馬も歩けば泥棒に当たる』。「泥棒!」という叫び声を聞き、現場へと急いだ陽子とルイス。犯人と思しき女性を捕まえた二人(?)と居合わせた男性だったが、女性は特に何も持っていなかった。しかし、ルイスは男女が共謀して高級腕時計を盗んでいたことを知る。だが、被害者である藤川は、何も盗まれていない、と言い……
2編目あっての5編目。ある意味で2編目の結論を完全にひっくり返すのだけど、これもまたさもありなん、という感じ。……馬券は自分で買いましょう!
……といった感じで、各編の感想を書いてきたのだけど、その他の部分でうまいな、と思った点を一つ。
それは、ルイスと陽子のやりとりを、法的な意味での「解決」に関与させていない、という点。本作のように、人外の存在が推理をして、とか、超能力で真相を見破って、という作品はしばしばある。この場合、真相を見破ったうえで、それをどう警察などに納得させるのか? というのが問題として立ちはだかる。しかし、本作の場合、真相の解明はルイスの推理でやるけど、同じタイミングで警察が犯人を逮捕しました、とか、事件化しない、ということでその部分を省く。結果、テンポの良い短編集に仕上げる。これは、ベテラン(と言っていいだろう)作家らしい工夫だな、と感じた。

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Tag:小説感想東川篤哉

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