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琥珀の秋、0秒の旅

著者:八目迷



修学旅行で函館を訪れていた麦野カヤト。内気で、友達もおらず、不登校気味な彼にとって、班での行動は苦痛そのもの。それでも周囲に合わせていたその時、世界の時が止まった。通行人も、車も動物も、すべてが停止し、静寂が世界を包んだ中、カヤトは、同じく動くことが出来る少女・アキラと出会う。口調も性格も正反対の二人は、やがて行動を共にして……
季節シリーズ(?)の第3作。タイトル通り、今回は「秋」。
時間が停止した世界で、唯一、動くことが出来る二人。亡き叔父がそんな現象について語っていた、ということを思い出し、東京を目指して歩んでいく、という物語。
この作品、まず秀逸だと感じたのはこの「時間停止」の設定。SF的な作品で、時間停止、というのはあるのだけど、自分が読んだ中でもこれだけきっちりとその設定を詰めている作品というのは珍しいと思う、例えば、時間が停止した、として、その中で生活インフラはどうするのか? 蛇口をひねっても水は出ない。手に取れるくらいのものなら動かすことが出来るが、大きなものは無理。移動をするのに、自転車を使おう、としても空気が大きな壁となり、普通に歩くよりも疲れてしまう。そんな細かな設定。そして、そんな世界だから、例えば、トイレで用を足した時も流すことが出来ない。恐らく、時間が動き出せば流れるだろうが……。結構、細かなところがしっかりと詰められているが故の面白さがあった。
そして、そんな世界での旅。冒頭で書いたようにカヤトとアキラ。正反対の二人。例えば、食べ物を手に入れるにしても店先で黙って持ってくればよい、というアキラと、それに異を唱えるカヤトとかぶつかっていく。それでも、函館から東京。青函トンネルを徒歩で進み、本州に出て……。そんな長い時間の中で、互いについてわかりあっていく。それは、恋愛ではなく、まさに「戦友」とでもいえるもの。その関係性が心地よくなっていく。
そして、そんな時間停止現象の理由と、それが動き出すきっかけ。そのときに起きるであろうこと……も、ちょっと切ない部分が見え隠れ。
ただ、時間が止まってしまえばよいという感情と、それがふっきれるきっかけの部分って、ある意味で人生ってそんなものかも、と思えるところがある。本当、くだらないことだけど、でも、それが大事っていうのはあるからね。その上での、ラストシーンでのアキラの言葉も良かった。
高いリーダビリティ。その中に詰め込まれた細かな設定。そして、カヤトとアキラの関係とその行き着いたもの。すべてが高水準で、すごく面白かった。

No.6337

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Tag:小説感想ガガガ文庫八目迷

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