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脱北航路

著者:月村了衛



国の威信をかけた北朝鮮軍の大規模演習。そんな中、潜水艦の艦長である桂東月(ケ・ドンウォル)大佐は、その潜水艦を駆って、日本への亡命を試みる。その艦内には、45年前に日本から拉致された一人の女性を連れて……
ということで、大規模演習の最中に亡命をすべく動き出した潜水艦の逃亡を描いた作品。
基本的には、亡命のために日本へと向かう潜水艦。それを追撃する北朝鮮軍の戦い、という戦闘を中心に物語が進んでいく。演習に参加した海軍兵たちの中でも、選りすぐりの腕利きたちが揃った桂東月の潜水艦。その優れた技術。そして、拉致被害者、それも、その代表格とされる女性という北朝鮮にとって最大級の手札を武器に、数々の危機が訪れながらも……という物語。まず、この部分での面白さがある。
ただ、それ以上に思うのは、この艦内にいる乗組員たちの心情。
北朝鮮の軍人。その中でもエリートと言って差支えのない面々が抱えている思い、というのが印象的。今世紀に入ったくらいから、日本でも断片的にではあるが、報道されるようになった北朝鮮の状況。例えば、新型コロナウィルスの蔓延は当然のように北朝鮮でも起きているわけだけど、日本のように、全国民にワクチン接種などが行われるような状況にはなっていない。それどころか、非科学的な「対策」なんていうのが推奨されている、なんていうのが報道されている。その一方で、「国の威信」などとミサイル発射などを行っているのは知っての通り。
日本に住んでいて、この時点で「何してんの?」という感じ。
それを当の北朝鮮の、それもエリートの視点で描いたら? という風に思うわけである。
何も知らない一般市民とは違い、現場の軍人として様々な状況を目の当たりにしている面々。その中には、無茶苦茶な核開発の中で家族を失うもの。理想として掲げているものとは裏腹に、不正な蓄財をしている将軍の一族という矛盾。民衆に対する裏切りへの罪悪感。そういうものが渦巻いている。だからこそ……。あくまでも、これは「断片的に」知られている北朝鮮の状況を反対側から……ということで、正確性とか、そういうものは保障されていないと思うのだけど、でも、エンタメ作品としての掘り下げ、という意味では十分に説得力があるものだと思う。
そして、その一方で、終盤のカギとなる拉致問題の端緒をつかみながらも、そんなことはないだろう、と見逃してしまった日本の関係者の面々の後悔もまた……
あくまでも物語はフィクション。その後の乗組員たちがどうなったのかも描かれない。ただ、そこに余韻が残る、とも言えるのだろう。

No.6352

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Tag:小説感想月村了衛

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