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お銀ちゃんの明治舶来たべもの帖

著者:柊サナカ



時は明治。女子が写真について学ぶ学校と設立された「女子写真伝習所」。そこに通う銀は、美味しいものが大好き。特に、舶来のものに興味津々。そんなある日、新宿高野で「バナナ」という南国の果物が売り出されたと耳にする。仲の良い基美、シズと共にバナナを買おうとするが、それはとても手の出せないような高級品。それでも諦めきれない銀は、基美、シズと「写真よろづ相談所」を作り、金を稼ごうとするのだが……(第1話)
から始まる連作短編集。
タイトルは「たべもの帖」とあるけど、この作品の場合、メインとなるのは食べ物じゃなくて、写真に関する蘊蓄など。
で、第1話は、そんな相談所に、やってきた依頼人が、片思いをしている襟巻の君こと、京香という女性の写真を撮ってほしい、という。しかし、その京香はそれを拒否。それでも説得をしようとした三人に京香が言ったのは……。この第1話が、一番、写真の技術とかそういうのとはかけ離れた話。ただ、この京香を追う中で当時の女性の立場とか、そういうのが描かれ、物語の舞台をしっかりと描いたエピソードだな、というのを感じる話だった。
笑ったのは、第2話。相談所を訪れた女性は、見合い写真を修整をしてほしい、という。勿論、技術によってそれをすることは可能。しかし、相談者の依頼の通りに修正をすると……。教官の指導などをする中、次々と言われた個所を修整する3人。しかし、どこかを修正すれば、別の場所が歪み、それを修正すると次は……。そんな試行錯誤の末、ようやく要望通りに完成するのだが……
「写真というよりも絵みたい」「原形はどこにもない」
そりゃ、そうだよな……。そんなギャグみたいな修整の末、明らかになった依頼人の目的。先に書いた時代背景とかと上手くマッチした内容でもあった。
第4話。やってきた依頼人の女性は、写真の合成によって、行方不明になった姉が元気でやっているように見せてほしい、というもの。依頼人と姉は、顔立ちなどは似ており、変装や合成で、それを作ることは簡単。だが、それでは問題は何も解決していない。そこで、依頼人の姉を探すことにするのだが……。依頼人の姉探しとか、そういう部分も面白いのだけど、その中でのちょっとした違和感。そして、後日談的に描かれる新たな技術。カラー写真という新時代の予兆。そこで現れる銀の抱えているもの、というのが印象に残る。
時代背景とか、そういう部分はこの時代が特に、というのはあるだろう。でも、終戦直後とか、そういう時代でも空気自体は残っているわけで、おかしな話ではない。でも、写真の現像とかが極めて複雑だった時代だからこそ、この第4話終盤の展開が作れたのだろうな、というのを感じずにはいられなかった。
というか、著者は『谷中レトロカメラ店』シリーズ以降、すっかり写真をテーマにした作品が板についたな、という感じがする。

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Tag:小説感想柊サナカ

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