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犯罪者書館アレキサンドリア ~殺人鬼はパピルスの森にいる~

著者:八重野統摩



父の遺した借金が原因で、殺されそうになった青年・神田六彦。彼は間一髪のところに現われた夏目という女性に命を救われる。借金を肩代わりしてもらう代わりに、彼女が経営する書店で働くことになった六彦。だが、その書店・アレクサンドリアは、殺し屋など、反社会的な人間だけが利用する店。そして、その書店の利用者たちは、シャーロック・ホームズを名乗る者に次々と殺される、という事件が起きていた……
なんか、すごく不思議な話だな、というのがまず思ったこと。
物語は連作短編形式で綴られた3編。冒頭の粗筋は、プロローグ段階で、本編は、アレクサンドリアで働き始めてからのもの。そして、各編では、フィリップ・マーロウ、『女には向かない職業』などの作品がモチーフになっている。
1編目『憧れのフィリップ・マーロウ』。書店の常連として紹介されたアーミン、ベルガー。彼らは殺し屋として生計を立てている。その中で、アーミンは、なぜか『長いお別れ』ばかりを購入している。定価の100倍という大金を払って……。そんな彼女の目的は? という謎はあるのだけど、物語自体は、アーミンらの世界観の説明といった感じかな? 定価の100倍もの金額で書籍を売る店。そこに集う者たちの人間性。生活。主人公である六彦が目の当たりにした事件というのが、その世界観を強く印象付ける内容になっている。
個人的に好きなのは2編目『おちゃめで可愛いコーデリア・グレイ』。店の常連である絵描き・ベネット。美術品窃盗団と組んで、贋作を作ることを生業とするベネットは、仕事にもある拘りがあるのだという。その拘りとは?
上質な贋作とはいったい何なのか? 確かに、相手を騙す、という意味では本物に似ていれば似ているほど良い、と言える。だが、贋作を売る商売、であればともかく、贋作が真作と間違われたままでは意味がない。真作に見え、しかし、贋作とバレる必要がある。でなければ、盗んだ真作を金に換えることが出来ない。この理論そのものが面白い。そして、その中で、ベネットが盗む相手は……。『女には向かない職業』に描かれたちょっと描写の違和感。そこからベネットの拘りへ、という展開は素直に面白かった。
そして、物語中で綴られるシャーロック・ホームズを名乗る殺人鬼との戦い、となる3編目は……
作中でのトリックは色々と考えられているのだけど、ちょっとキャラクターの掘り下げとかが薄かったかなぁ、という印象。一応、その理由とか背景とかは語られるのだけど、1編目、2編目と別の事件を主題にして進み、中心となるキャラクターも別になるために、実質、ここで犯人の正体へ……ということになる。なるのだけど一番短い、エピソードで事件のあらましから何から、と詰め込んだため、あまり自分の心に響く形になっていないような印象を受けた。
1編目、2編目みたいなエピソードを綴った巻を2巻、3巻くらいやってから、なら違ったと思うだけに、ちょっと印象が薄くなってしまったように感じる。

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Tag:小説感想メディアワークス文庫八重野統摩

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