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怪物中毒

著者:三河ごーすと



人々を獣化させ、本能を解放し、自由と匿名を謳歌させる「怪物アプリ」。極度の監視社会化した国において、唯一、許可された官製スラム街「仮面舞踏会」では、そんなアプリが蔓延していた。そんな町で吸血鬼の零士と、人狼の月は、掃除屋として害獣駆除を請け負っている。そんな中、二人は車いすの少女・命と出会い……
文庫の粗筋に「オーバードーズ・アクション!」とあるのだけど、それはどうなんだろう? と、ちょっと疑問を覚えた自分……
とはいえ、すごく面白かったのは確か。
この作品、何が良いかって、まず作品の世界設定が見事。冒頭の粗筋にもちょっと書いたのだけど、至る所に防犯カメラが設置され、常に人々の動向が監視されている、という社会。ただし、舞台となるスラム街だけは、それがなく、普段の生活で溜まった鬱憤を晴らすためにそこへ訪れる。ただ、そこで自らの正体を隠すため、獣化する「怪物アプリ」が蔓延しており、それを使うと獣人のような姿になり、また、理性も弱くなる、という効果が出る。それ故に、トラブルも頻発し、人が死ぬ、ということも珍しくない……というもの。その時点でまず面白い。
そして、そこで零士と月は、将来を有望視されていたものの、事故によって車いす生活になった陸上選手・命と出会い、そこで暴走しては人々を死なせているケンタウロスとも出会う。ともに、ケンタウロスを倒すのだが、その正体は……。そして、そのケンタウロスの背景にあったものを調べる中、怪しげな行動を取っている少女・蛍を負うことになって……
スラム街で、獣人となった者たちとの戦い。その正体を追って……という形で話が進んでいくのだけど、零士たちが出会う少女たちの心情描写が印象深い。事故によって将来を絶たれた命。零士たちに対する口は汚い。しかし、じゃあ絶望しているのか、と言えばそんなことはなく、足で走れないなら……とすら考えている。そして、自分に対する同情すらをも嫌う。だからこそ、ある人物の言動をぶった切る啖呵が格好良かった!
一方、その事件の後始末の中で出会った蛍。特待生として学園生活をしつつも、スラム街に出入りし……という噂がある彼女。しかし、その実態は……。施設育ちで、成績優秀だったために「勝手に」特待生として挙げられた学校。その一方で、その施設は一人の子供が問題を起こして窮地に。自分の望みとは関係のないところで進んでいく思惑。そこに振り回されながらも、必死に抗おうとする。命とはまた違った形で、彼女もまた「強い」というのが感じられる。
まだ1巻ということで、色々と裏の組織が……とかが示唆されているだけ、っていう部分はあるのだけど、舞台の魅力。そして、ヒロイン2人の強さ、というのがすごく格好良かったな、というのを何よりも思った。

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Tag:小説感想電撃文庫三河ごーすと

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