fc2ブログ

堕天使の秤

著者:吉田恭教



環八で偽造外交官ナンバーを付けたSUVが事故に巻き込まれた。搭乗していたのは二人の医師と、麻酔薬で眠っていた男女。そのうち、麻酔で眠っていた男性以外の三人は死亡し、残る一人も意識不明の重体。警視庁捜査一課の南雲と茂木は、この事件について捜査を開始する。一方、厚労省の官僚・向井俊介は、年金の詐取事件についての調査を命じられるが、その被疑者は密かに肝臓移植を受けた形跡が見えて……
向井俊介シリーズ(?)の第3作。
相変わらず色々と詰め込んでいるけど、それを感じさせないテンポの良さで全く飽きさないのは流石。
冒頭に書いたように、物語は南雲ら警察側の視点と、俊介の視点で綴られていく。
環八の事故で発覚した事件。死亡した医師二人は、勤務先も出身大学も異なり、繋がりが見当たらない。職場では評判がよく、なぜそんな医師がこんなことを? という疑念が何よりも浮かぶ。一方、俊介は年金詐取事件を調べるが、その疑惑の人物は肝硬変を患っていた。しかし、そんな人物が、最近は病院に通っていた形跡が見当たらない。だとすると、考えられるのは……密かに肝臓移植を受けていたのでは? しかも、その周辺でやはり医師が不可解な死を遂げていたことが判明し……やがて、南雲と俊介はともに調べることになって……
医師の不可解な死という謎。その一方で、その医師が関わっていたと思われる年金詐取をしていた人物が無事というのはなぜなのか? 口封じ、というなら、真っ先に殺されるのは当事者のはず……
何かチグハグな印象も残る事件。その陰でだんだんと見えてくる臓器の闇移植という疑惑。その裏側にある、臓器移植の難しさ、という問題。臓器移植法が出来た、とはいえ、ドナーなどは見つからず……という状況。ある意味で、犯行はその現状を変えたい、という思いを抱いている。それは良いことのようにも思えるが、しかし、違法は違法。でも、そんな行動に賛同するものも数多くある。
問題を巡っての想いと、そのためには何をしてもよいのか? という問い。事件の構図は途中である程度はわかるのだけど、その上で主要人物が起こした行動によってそんな問いがクローズアップ。そして、その中での南雲の行動。ここも、プロローグをはじめ、南雲の祖父が遺した悔いとリンクすることで上手くまとめられている。
殺人のトリック。社会問題。そして、その上での問いかけ。色々と詰め込まれながらも、しっかりとまとめ上げられた作品だと思う。

No.6399

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。

スポンサーサイト



Tag:小説感想吉田恭教

COMMENT 0