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襷を、君に。

著者:蓮見恭子



中学3年の時、助っ人として参加した駅伝での高揚感。さらにテレビで見た同学年の庄野瑞希の走り。それに憧れ、高校では陸上をすることを決めた倉本歩。しかし、彼女が入った高校の陸上部は、セレクションで選ばれた人でなければ入れなかった。それでも、先輩のアドバイスで練習に帯同する中、入部を認められる。そんなとき、駅伝を志すきっかけであった瑞希が同じ学校に進学したことを知り……
女子駅伝を題材として物語。……なのだけど、ライバルとの戦いとか、そういう部分よりも部活内での人間関係、そして、なぜ走るのか? というようなところを主題に置いた話のように感じた。
冒頭の粗筋で書いたように、高校に入ったら陸上、駅伝をやる! と決め、近所で、駅伝にも力を入れている港ヶ丘高校へ進学した歩。けれども、陸上部は試験の段階で篩にかけられ、一般での入部は不可。それでも、部活の練習に合わせて歩もワークをし、例外としての入部を認められる、というところから。そして、その部活で、憧れの相手であった瑞希と出会うが……
とにかく、主人公の歩は、走る、ということが大好き。普段の練習は大変だが、しかし、そんな希望があるからこそ、それが苦にならない。そして、監督らの指導の下、めきめきとタイムを縮めていく。その一方、瑞希は、というと……
中学最後の試合で、物凄い走りを見せていた瑞希。しかし、実際にあった彼女はというと、自分のことを言うことが出来ず、人の顔色を窺ってばかり。それでも、タイムなどは良いのだが……。物語の中心は、この瑞希の存在がクローズアップされる。父は別の県の強豪校を指導する有名指導者。母もまた、元駅伝ランナー。ある意味、エリート血統と言える彼女。だが、その中で彼女は追い込まれており、そして、インターハイ予選を前にした大会で彼女は大きな事件を起こしてしまう。
科学的な体調管理とか、そういうものを無視した練習がまかり通っていた時代。少なくとも湊ヶ丘では、そんな指導はない。だが、その時代の影響というのは、確実に瑞希を蝕んでいた。それは、身体だけでなく、家族関係、さらには彼女の心を。一方で、そんな瑞希とは別に、練習に励む陸上部の面々にとっては、関係のないこと。そして、チームプレイである駅伝において、そういう人間は……。練習描写、怪我などをに泣いた者もおり、という中でのそれぞれの関係性というのが印象に残る。その中で、主人公の歩は、その調整役だなぁ、という印象。
試合描写とか、そういう部分は大分、あっさりとした感じがするのだけど、ただ、この分量でそれを描き切るのは難しいはず。そういう意味では、瑞希を中心とした人間関係の物語と言えるんだろう。

No.6413

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Tag:小説感想蓮見恭子

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