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ストロベリー戦争 弁理士・大鳳未来

著者:南原詠



宮城県の久郷村。その久郷いちご園で、新種のイチゴ『絆姫』が開発され、ついに出荷が始まろうとしていた。しかし、その出荷を目前に大手総合商社・田中山物産から「絆姫という名称は、当社の商標を侵害している」という警告文が……。クリスマスケーキに使用することが決まっていた世界的パティスリー・カリスからは、名称の変更は認められない、と言われる中、事件に当たる大鳳未来は……
大鳳未来シリーズの第2作。
物語としては、非常にシンプル。でも、だからこそ物語の要素がわかりやすく、そして、魅力的になっているように思う。
依頼を受け、久郷いちご園へと向かった未来。とりあえず、出荷は一度、停止という形で混乱状態に。そもそも、商標権って何なのか? そんなことすらよくわかっていないいちご園の面々。『絆姫』と付けると商標侵害だ、というなら、ただの「苺」とすればよいじゃないか、という意見も出る。確かに、それならば法的問題はクリアできる。しかし、それではブランド化とかが出来ないし、何よりも名前も何もないものは、スーパーでも八百屋でも扱ってくれるはずがない。
その部分はわかるのだけど、じゃあ、商標権って何だ? 特許や、品種とは何が違うの? そういう部分、自分もそうだったのだけど、よくわかっていない人が多いのではないかと思う。その辺りをしっかりと解説しつつ、敵対することになる田中山物産が周到に仕組んだ策略にどう立ち向かうのか? という展開は、シンプルなのだけど、それだけにわかりやすくて面白かった。
しかも、敵対することとなる田中山物産側の狙い。ハッキリ言って、未来が言うように、ここがやっていることは未来が過去にやっていたパテント・トロールそのもの。ただし、その方法を取った裏にある、日本の商標などに関する意識の低さ。そこに付け込まれ、海外に日本が作った優れた品種が流出してしまっているという実情は間違いなくある。それをどうにかしたい……。その部分については……。(未来たちから見れば)やっていることはひどいけれども……そう思わせる敵役という配置も上手い。
ともかく、大企業であり、法務部などもしっかりとしている敵。その中で、どうやって『絆姫』という名前のままで流通させるか、という未来の一手は……
……ハッキリ言って大笑い。そりゃ、こんな方法、誰も考えつかんわ! 現実では絶対に無理だけど、でも、フィクションの中ならば……。絶妙すぎるバランスでの決着のさせ方もまた、エンタメ作品として見事なまとめだと思う。

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Tag:小説感想南原詠

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