著者:降田天


年の瀬の地下鉄で起きた惨劇。突如、男が刃物を振り回し、妊婦を切りつけ、それを助けようとした老人の命を奪った。「地下鉄S線内無差別殺傷事件」と呼ばれるその事件は、犯人が現行犯で逮捕され終わった……はずだった……
という、事件に関わった人々を描く連作短編集。全6編。
1編目『音』。事件の起きた車両に乗り合わせた和宏。事件の中、彼は、パニックに陥り、一目散にその場から逃げ出した。しかし、犯人も、そして、身を挺して犯人に立ち向かった老人も、彼と比べれば貧弱な人間。対抗できたはずなのに……ネットでは彼に対する批判が広がり、彼は引きこもり状態に……。年老いた母がパートで稼ぐ金だけで暮らす状況の中、和宏は奇妙な「音」を感知して……
主人公、和宏の置かれた状況っていうのは素直に共感の出来るところ。目の前でいきなり惨劇がおき、パニックに。その状況で、我先に、と逃げ出すのは普通にあることだと思う。しかし、その状況を映したカメラでは……。ある意味で客観的な視点での動画と、その状況に置かれた本人の主観では全く異なるはず。でも、それを理由に世間から責められる、という苦しさ。これは実際にあるんだろう、と思う。そんな和宏の再生の話なのだけど……いきなり超常現象的な話で、そこには面を食らった。
主人公に共感できたのは『顔』かな? スポーツ特待生として高校に入学した池渕。期待通りに成績を残していたが、最近はややスランプ気味。そんなとき、事件に巻き込まれて……。事件に巻き込まれたことで怪我をし、休養をした。そして……。そんなとき、学校の報道部から取材を受け……
勿論、自分は特待生とか、そういう立場になったことはないけど、例えば、嫌なイベント前とかに「大災害とか起きないかな」とか思ったことはある。そんなとき、身近でこんなことが起きたら……。自分の立場を守るために、とにかく取材に答えて……。しかし、だんだんとそれが後を引き……。一番、あり得そうな物語だな、という風に感じた。
ちょっとカラーが違うのが、前日譚的な『壁の男』。イラストレーターとしてデビューはしたが、自分の描いた絵が動いて見える、という状況になり仕事が出来なくなった似鳥。そんな彼は、ある廃工場を見つけ、その壁に自分のイラストを描くことに。勿論、これは不法行為。けれども、依頼も何もなく描ける環境を堪能することに。そんなとき、工場で一人の男性と出会う。当初は、工場の持ち主かと思ったが……
別に絵に理解があるわけでもない、ただの酔っぱらい。しかし、ざっくばらんな男とのやり取りが楽しくて……。この事件で死亡した老人。色々と悪い噂も出てくるが……そんな老人も、どこかで人の役に立っていた。似鳥はそんな彼とのやり取りを思い出して……。何か悪い部分とかも描かれる中、一番、綺麗に終わった話のように思う。
No.6417

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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
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年の瀬の地下鉄で起きた惨劇。突如、男が刃物を振り回し、妊婦を切りつけ、それを助けようとした老人の命を奪った。「地下鉄S線内無差別殺傷事件」と呼ばれるその事件は、犯人が現行犯で逮捕され終わった……はずだった……
という、事件に関わった人々を描く連作短編集。全6編。
1編目『音』。事件の起きた車両に乗り合わせた和宏。事件の中、彼は、パニックに陥り、一目散にその場から逃げ出した。しかし、犯人も、そして、身を挺して犯人に立ち向かった老人も、彼と比べれば貧弱な人間。対抗できたはずなのに……ネットでは彼に対する批判が広がり、彼は引きこもり状態に……。年老いた母がパートで稼ぐ金だけで暮らす状況の中、和宏は奇妙な「音」を感知して……
主人公、和宏の置かれた状況っていうのは素直に共感の出来るところ。目の前でいきなり惨劇がおき、パニックに。その状況で、我先に、と逃げ出すのは普通にあることだと思う。しかし、その状況を映したカメラでは……。ある意味で客観的な視点での動画と、その状況に置かれた本人の主観では全く異なるはず。でも、それを理由に世間から責められる、という苦しさ。これは実際にあるんだろう、と思う。そんな和宏の再生の話なのだけど……いきなり超常現象的な話で、そこには面を食らった。
主人公に共感できたのは『顔』かな? スポーツ特待生として高校に入学した池渕。期待通りに成績を残していたが、最近はややスランプ気味。そんなとき、事件に巻き込まれて……。事件に巻き込まれたことで怪我をし、休養をした。そして……。そんなとき、学校の報道部から取材を受け……
勿論、自分は特待生とか、そういう立場になったことはないけど、例えば、嫌なイベント前とかに「大災害とか起きないかな」とか思ったことはある。そんなとき、身近でこんなことが起きたら……。自分の立場を守るために、とにかく取材に答えて……。しかし、だんだんとそれが後を引き……。一番、あり得そうな物語だな、という風に感じた。
ちょっとカラーが違うのが、前日譚的な『壁の男』。イラストレーターとしてデビューはしたが、自分の描いた絵が動いて見える、という状況になり仕事が出来なくなった似鳥。そんな彼は、ある廃工場を見つけ、その壁に自分のイラストを描くことに。勿論、これは不法行為。けれども、依頼も何もなく描ける環境を堪能することに。そんなとき、工場で一人の男性と出会う。当初は、工場の持ち主かと思ったが……
別に絵に理解があるわけでもない、ただの酔っぱらい。しかし、ざっくばらんな男とのやり取りが楽しくて……。この事件で死亡した老人。色々と悪い噂も出てくるが……そんな老人も、どこかで人の役に立っていた。似鳥はそんな彼とのやり取りを思い出して……。何か悪い部分とかも描かれる中、一番、綺麗に終わった話のように思う。
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