著者:五十嵐大


東京でフリーライターをしている小野寺衛は、同棲する恋人の妊娠を知ったその日、兄が死んだという連絡を受け取る。知的障害を持っていた兄・聡だが、その死因は自殺らしい、ということ以外はわからない。葬儀のため、高校を卒業してから初めて帰省した衛は、兄の死の理由を探ることにするが……
著者にとって初めてのミステリー小説……というか、小説家としてのデビュー作に当たるらしい。著者のプロフィール紹介を見ると、著者の経験、周辺で見聞きしたものを詰め込んだ作品ということなのかな? というのを感じる。
で、知的障害を抱えた兄の死について、主人公の衛が探る、というミステリー作品ではあるのだけど、中心となるのは、知的障害を持った兄、その周辺の人々の葛藤とか、悩みとか、そういう部分を綴った物語という印象が強い。
衛の家族。先に書いたように、知的障害を抱えた兄。簡単な計算などにも苦労をし、コミュニケーション能力なども低い。そんな兄弟の父である健蔵は、そんな兄の障害は「軽い」と言い張り、厳しく兄を鍛えようと当たる。母の恵は、衛が幼いころに亡くなっており、母の姉である伯母・妙子が兄弟の母親代わりとして面倒を見てきていた。そして、兄弟の幼馴染である百合は、現在、兄の就労支援などをしていて……
第1章で衛が、兄の死に対して疑問を抱き、それを調べる、という形で物語が始まって、その後の章は、そんな聡の周囲の人々をクローズアップしていく。そこで描かれるものは……
聡に対して厳しく当たっていた父。「軽度の障害」と口にしていた、というのも全ては自分は兄よりも早く死ぬだろう、と思っていたから。自分が死んだら、聡はどうするのか? 一人で生きていくことが出来るようにしなければ……。そんな思いがあった……。一方の伯母・妙子。元々、妹の恵とは仲の良い姉妹だった。そして、自分は子供に恵まれず、結婚生活も失敗。そんな中で、妹が遺した兄弟の面倒を見ることに……。妙子にとって、兄弟はかわいい存在ではある。しかし、自らの結婚生活の失敗。妹には子供が出来、自分には……という劣等感も。本来、比較したりとか、そういうことをする必要はないはずの関係。でも、周囲の態度とか、そういうものが彼女を追い詰めていた。そして、百合。他の面々と違い、聡の素直さ、率直さ、そういうものに惹かれていた存在。だからこそ、聡の社会参加なども推し進めた。でも、本当にそれは聡にとって良いことだったのか……。兄の死を調べる中で、そんな事情を知っていく衛。そんな衛自身も、ずっと兄の「お守り」というような存在になっており、それが重しになっており……
社会常識とか、そういうものを考えると皆の考え方が必ずしも間違っている、というわけではない。色々と間違ったこともしているが、彼らは悪人というわけでもない。だが、それらが果たして、聡にとって「生きやすい社会」に繋がっていたかというと……。この作品の場合、聡が知的障害を抱えている、というところを端緒にしているのだけど、例えば、心に傷を負った人とか、そういうものにも広げても、同様のことがいえると思う。その辺りを色々と考えさせられる。
一応、ミステリーとしての答えも示されてはいるのだけど、そこは物語をまとめるためのオマケのような気はする。あくまでも、上に書いたような問題提起を主にした作品として楽しむことが出来たかな? という感じ。
No.6423

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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
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東京でフリーライターをしている小野寺衛は、同棲する恋人の妊娠を知ったその日、兄が死んだという連絡を受け取る。知的障害を持っていた兄・聡だが、その死因は自殺らしい、ということ以外はわからない。葬儀のため、高校を卒業してから初めて帰省した衛は、兄の死の理由を探ることにするが……
著者にとって初めてのミステリー小説……というか、小説家としてのデビュー作に当たるらしい。著者のプロフィール紹介を見ると、著者の経験、周辺で見聞きしたものを詰め込んだ作品ということなのかな? というのを感じる。
で、知的障害を抱えた兄の死について、主人公の衛が探る、というミステリー作品ではあるのだけど、中心となるのは、知的障害を持った兄、その周辺の人々の葛藤とか、悩みとか、そういう部分を綴った物語という印象が強い。
衛の家族。先に書いたように、知的障害を抱えた兄。簡単な計算などにも苦労をし、コミュニケーション能力なども低い。そんな兄弟の父である健蔵は、そんな兄の障害は「軽い」と言い張り、厳しく兄を鍛えようと当たる。母の恵は、衛が幼いころに亡くなっており、母の姉である伯母・妙子が兄弟の母親代わりとして面倒を見てきていた。そして、兄弟の幼馴染である百合は、現在、兄の就労支援などをしていて……
第1章で衛が、兄の死に対して疑問を抱き、それを調べる、という形で物語が始まって、その後の章は、そんな聡の周囲の人々をクローズアップしていく。そこで描かれるものは……
聡に対して厳しく当たっていた父。「軽度の障害」と口にしていた、というのも全ては自分は兄よりも早く死ぬだろう、と思っていたから。自分が死んだら、聡はどうするのか? 一人で生きていくことが出来るようにしなければ……。そんな思いがあった……。一方の伯母・妙子。元々、妹の恵とは仲の良い姉妹だった。そして、自分は子供に恵まれず、結婚生活も失敗。そんな中で、妹が遺した兄弟の面倒を見ることに……。妙子にとって、兄弟はかわいい存在ではある。しかし、自らの結婚生活の失敗。妹には子供が出来、自分には……という劣等感も。本来、比較したりとか、そういうことをする必要はないはずの関係。でも、周囲の態度とか、そういうものが彼女を追い詰めていた。そして、百合。他の面々と違い、聡の素直さ、率直さ、そういうものに惹かれていた存在。だからこそ、聡の社会参加なども推し進めた。でも、本当にそれは聡にとって良いことだったのか……。兄の死を調べる中で、そんな事情を知っていく衛。そんな衛自身も、ずっと兄の「お守り」というような存在になっており、それが重しになっており……
社会常識とか、そういうものを考えると皆の考え方が必ずしも間違っている、というわけではない。色々と間違ったこともしているが、彼らは悪人というわけでもない。だが、それらが果たして、聡にとって「生きやすい社会」に繋がっていたかというと……。この作品の場合、聡が知的障害を抱えている、というところを端緒にしているのだけど、例えば、心に傷を負った人とか、そういうものにも広げても、同様のことがいえると思う。その辺りを色々と考えさせられる。
一応、ミステリーとしての答えも示されてはいるのだけど、そこは物語をまとめるためのオマケのような気はする。あくまでも、上に書いたような問題提起を主にした作品として楽しむことが出来たかな? という感じ。
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