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シャドウワーク

著者:佐野広実



暴力をふるってくる夫から命からがら逃れてきた紀子。看護師である路子から紹介されたのは、江の島近くに建つ風変わりなシェルターハウス。シェアハウスのようなそこは、あるルールに基づいて運営されている施設だった。一方、キャリア官僚である夫のDVを告発した結果、館山署へと飛ばされてしまった刑事の薫は、一人の女性の変死体事件が気にかかる。自殺として処理された事件だが、その女性は夫からDVを受けていたようで……
ということで、DVというのが題材となる作品。
冒頭に書いた通り、物語は紀子、薫、というDV被害者である二人の視点で綴られる。
DVの末に江の島のシェルターへと受け入れられた紀子。シェルターとはいえ、そこにいるのは主である昭江と3人の女性、紀子を導いた路子の6人のみ。そこに住んでいる4人は、昭江の経営するパン屋で働き、食事などは当番制。そして、毎日、奇妙なゲームをすることが日常。さらに、この家から出たものは、二度と入ることが出来ない、というルールもあって……
一方の薫。DV被害者の自殺と思われる遺体を目にした薫。自らの経験もあり、その夫を調べるが、典型的な……。だが、自殺と判断されたことで手を出すことが出来ない中、その夫が奇妙な死を遂げる……。何かあるのではないか? そう調べる中、江の島のシェルターハウスの存在が見えてきて……
題材であるDVに関する描写。ただ、理不尽に暴力を受けるだけ、であるならば、まだ逃げ出すことが出来る。しかし、相手は、その暴力などに何だかんだと理由をつけ、正当化をする。その中で、自分にも非があるから……などと「訴えない」方向へと誘導されてしまう。そして、気づいたときには……。一方で、薫のように、自分の被害を訴えた場合はどうか? 勿論、状況によって変わるのだろうが、警察という組織。しかも、夫はエリート。そのエリートが……という状況でかえって自分の立場を危ういものにしてしまう。しかも、夫は、それで自分を攻め立て、自分に従えとストーカーと化して……。夫婦の場合、確かにもとを糺せばただの他人ではある。しかし、家庭という密室があり、その中でのルールなどがあり、という状況の中で判断能力が奪われていく過程、というのは非常にリアルに感じられた。
正直なところ、江の島のシェルターのやっていること自体は、早い段階でこうだろう、と予測することはできる。ただ、その中で、薫が調べていた女性がどう関わってくるのか? そして、どういう風に物語を着地させるのか、は最後までわからず、そこを何よりもの着目点として読んだ。その結末は……
恐らく、当事者にとっては、一つの救いなのだとは思う。
ただ、その一方で、これはこれで一つの狂気ともいえるわけで、そこにうすら寒いものを感じるのも確か。まぁ、かつてと比べれば制度などが整ったとはいえ、まだまだ不十分という状況を鑑みると、そうなるのも致し方がないのかも、とは思うものの……

No.6428

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Tag:小説感想佐野広実

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