著者:滝川さり


群集恐怖症を持つ小学校教師の美咲は、クラスのいじめに手を焼いていた。標的とされているのは、少し前、祖母が不可解な姿の遺体で発見された洋館で母と暮らす小柴めぐみ。いじめを主導するのは、市議会議員を父に持ち、母も自分への攻撃を続ける中村天妃愛(そふぃあ)。美咲は、事なかれ主義の教頭らの嫌味などを受けながらも、めぐみのケアのため、彼女と交換日記を始めるのだが……
途中まではじっくり。後半は怒涛の……。そんな印象。
あらすじで書いたように、受け持っているクラスで起きているいじめ。標的にされ、現在は不登校になってしまっためぐみと何とか接点を、と始めた彼女との交換日記。天妃愛の母辺りから「えこひいき」なんていう風に言われるのでは、という教頭の嫌味などもありつつも、交換日記を始めると、そこにはめぐみの日常が。「母親とお菓子を作った」「庭に来る猫が悪さをして困っている」そんなごくごくたわいのないやりとり。だが、そんな中で示唆される「家にいる小人」なる存在。勿論、そんなものがいるはずはない。ストレスなどから来る想像上の存在……そう思うことにするが……
その悪さをする猫が死んだ、など、次第に何かを予兆させる文言が……。小人などいるはずがない。けれども、実際にめぐみの祖母は不可解な死を遂げ、今度は猫の死。確信したように語るめぐみ……と、不気味さが積み重なっていく。そんな中、不登校だっためぐみが登校してくるが、天妃愛は再びめぐみに攻撃を企んで……と、そんな前半の物語。
日記のやり取りなどの上では、特段、何かが起きているわけではない。けれども、読んでいてすごく「嫌な気分」にさせてくれる。それは、美咲自身がかつていじめを受けていて、場の空気を知っていること。モンスタークレイマーと言える天妃愛の母の行動。天妃愛自身も、美咲が手を出せないと理解した上での横暴な行動の数々。事なかれ主義の学校の態度。そして、めぐみが時折見せる表情……。そういう下地となる部分が、何重にもあって雁字搦めになっているからこそ。この辺りの組み合わせ方が雰囲気を非常にうまく作っていると思う。
そして、めぐみが登校を初めて、事件が起きて……からの後半。被害者の証言などから「小人」がいることは(美咲にとって)現実に。だが、それが思わぬ方向に飛び火をし、なぜ、そこで? という謎へ。勿論、めぐみに対する恐怖心もあるし、どうやって自分の身を守れば、という思いもある。じっくりと不気味さを積み重ねていく前半とは反対に、一種のパニックホラーへ転換していく様は鮮やかの一言。それでも……という美咲の行動は「教員」としての矜持を感じるし。
ただ、この「小人」の存在に関しては、見方を変えると自然界における「外来種」とか「害獣」とかの問題に通じるものも感じたり。小人自身は、決して悪意のある存在ではない。けれども、人間の側によって翻弄され、「悪」にされてしまう、という点で。物語の結末は、嫌な余韻を残すのだけど、これもまた、その一環……のような気がする。
No.6450

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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
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群集恐怖症を持つ小学校教師の美咲は、クラスのいじめに手を焼いていた。標的とされているのは、少し前、祖母が不可解な姿の遺体で発見された洋館で母と暮らす小柴めぐみ。いじめを主導するのは、市議会議員を父に持ち、母も自分への攻撃を続ける中村天妃愛(そふぃあ)。美咲は、事なかれ主義の教頭らの嫌味などを受けながらも、めぐみのケアのため、彼女と交換日記を始めるのだが……
途中まではじっくり。後半は怒涛の……。そんな印象。
あらすじで書いたように、受け持っているクラスで起きているいじめ。標的にされ、現在は不登校になってしまっためぐみと何とか接点を、と始めた彼女との交換日記。天妃愛の母辺りから「えこひいき」なんていう風に言われるのでは、という教頭の嫌味などもありつつも、交換日記を始めると、そこにはめぐみの日常が。「母親とお菓子を作った」「庭に来る猫が悪さをして困っている」そんなごくごくたわいのないやりとり。だが、そんな中で示唆される「家にいる小人」なる存在。勿論、そんなものがいるはずはない。ストレスなどから来る想像上の存在……そう思うことにするが……
その悪さをする猫が死んだ、など、次第に何かを予兆させる文言が……。小人などいるはずがない。けれども、実際にめぐみの祖母は不可解な死を遂げ、今度は猫の死。確信したように語るめぐみ……と、不気味さが積み重なっていく。そんな中、不登校だっためぐみが登校してくるが、天妃愛は再びめぐみに攻撃を企んで……と、そんな前半の物語。
日記のやり取りなどの上では、特段、何かが起きているわけではない。けれども、読んでいてすごく「嫌な気分」にさせてくれる。それは、美咲自身がかつていじめを受けていて、場の空気を知っていること。モンスタークレイマーと言える天妃愛の母の行動。天妃愛自身も、美咲が手を出せないと理解した上での横暴な行動の数々。事なかれ主義の学校の態度。そして、めぐみが時折見せる表情……。そういう下地となる部分が、何重にもあって雁字搦めになっているからこそ。この辺りの組み合わせ方が雰囲気を非常にうまく作っていると思う。
そして、めぐみが登校を初めて、事件が起きて……からの後半。被害者の証言などから「小人」がいることは(美咲にとって)現実に。だが、それが思わぬ方向に飛び火をし、なぜ、そこで? という謎へ。勿論、めぐみに対する恐怖心もあるし、どうやって自分の身を守れば、という思いもある。じっくりと不気味さを積み重ねていく前半とは反対に、一種のパニックホラーへ転換していく様は鮮やかの一言。それでも……という美咲の行動は「教員」としての矜持を感じるし。
ただ、この「小人」の存在に関しては、見方を変えると自然界における「外来種」とか「害獣」とかの問題に通じるものも感じたり。小人自身は、決して悪意のある存在ではない。けれども、人間の側によって翻弄され、「悪」にされてしまう、という点で。物語の結末は、嫌な余韻を残すのだけど、これもまた、その一環……のような気がする。
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