著者:万城目学


吸血鬼の一族である嵐野家。ただし、現代の吸血鬼は人間社会に溶け込み、血を吸うなんてもってのほか! そんな嵐野家の一人娘・弓子が間もなく17歳というある日、彼女の目の前にトゲトゲの「Q」という化物が……。Qは誕生日を迎えるまでの10日間、彼女が吸血行為をしないか、監視をするために来たというのだが……
著者の作品を読むのも久々だな……と、過去の記録を探ってみると約5年ぶりだった。
で、その頃に読んだ著者の作品というと、何かちょっと小難しい雰囲気とかが漂った作品のイメージがあったのだけど、本作は結構、ストレートに明るい、ほんわかとした雰囲気から始まる。
冒頭に書いた通り、人間社会に溶け込んだ吸血鬼。吸血鬼の社会では17歳が「大人」であり、大人になるためには儀式を受ける必要がある。そこで、17歳になる前の10日間、Qという存在により、血を吸ったりしない、ということを確認してもらう必要がある……というのが前提。
と言っても、弓子自身には吸血衝動があるわけでもなく、ただただ普通の高校生としての日々を送る毎日。幼なじみで親友のヨっちゃんと遊んだり、彼女の恋の手伝いをしたり……という日常。そんなヨっちゃんの恋の手伝いの中、彼女の意中の相手・豪太、豪太の友人・蓮田と遊びに行くことになるが……。前半2章は、完全に日常の中の話。そこにQという闖入者が加わり、それを隠して……というある種のドタバタ劇展開。……こう書くとQの存在だけが異質だけど、ヨっちゃんも結構、変な女子高生で変な人に振り回されつつも……という感じの話になっている。しかし、2章の後半で事件が起こり、弓子は血を吸ってしまうが……
「血を吸ったはず」にもかかわらず、なぜか「血を吸っていない」ことになっている弓子。意識を取り戻した時、すでに10日間は終わっていた。「?」が残る中、何があったのかを探り始め、吸血鬼の歴史、その在り方、そして、Qがしてくれたことがわかってきて……と急展開していくことに。
後半の流れの中で、考えさせられるのは「ルール」と「正義」の関係性かな? 吸血鬼が人間社会で、平穏な生活をするためには、昔のように人の血を吸って……とかやっていたのではダメ。だから、それを防ぐルールが必要。これはわかるところ。しかし、弓子が血を吸うことになったのは、人の命を救うため。そして、そのための行為をした自分の罪をQは被った。だが、それはQのルール違反を意味する。それを罰することは良いことなのか? さらに、血を吸わない、というのは吸血鬼にとって、本来は不自然なこと。そんな考えにも触れる中、弓子は……
序盤のほのぼのとした日常から、当たり前だと思っていた吸血鬼社会のルールに対するモヤモヤ。そして、弓子の決断とスリリングな冒険へ。劇的にカラーが変わった、という感じでもないけど、気づけば大きく変わっている。この辺りのスライドのさせ方が見事。そして、弓子のまっすぐな人間性(?)も気持ちが良い。独特の世界観ではあるけど、読んでいて全く違和感なく読めるし、ちょっと考えさせられ、気持ちよく終われる。そんな作品だった。
No.6454

にほんブログ村
この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。
吸血鬼の一族である嵐野家。ただし、現代の吸血鬼は人間社会に溶け込み、血を吸うなんてもってのほか! そんな嵐野家の一人娘・弓子が間もなく17歳というある日、彼女の目の前にトゲトゲの「Q」という化物が……。Qは誕生日を迎えるまでの10日間、彼女が吸血行為をしないか、監視をするために来たというのだが……
著者の作品を読むのも久々だな……と、過去の記録を探ってみると約5年ぶりだった。
で、その頃に読んだ著者の作品というと、何かちょっと小難しい雰囲気とかが漂った作品のイメージがあったのだけど、本作は結構、ストレートに明るい、ほんわかとした雰囲気から始まる。
冒頭に書いた通り、人間社会に溶け込んだ吸血鬼。吸血鬼の社会では17歳が「大人」であり、大人になるためには儀式を受ける必要がある。そこで、17歳になる前の10日間、Qという存在により、血を吸ったりしない、ということを確認してもらう必要がある……というのが前提。
と言っても、弓子自身には吸血衝動があるわけでもなく、ただただ普通の高校生としての日々を送る毎日。幼なじみで親友のヨっちゃんと遊んだり、彼女の恋の手伝いをしたり……という日常。そんなヨっちゃんの恋の手伝いの中、彼女の意中の相手・豪太、豪太の友人・蓮田と遊びに行くことになるが……。前半2章は、完全に日常の中の話。そこにQという闖入者が加わり、それを隠して……というある種のドタバタ劇展開。……こう書くとQの存在だけが異質だけど、ヨっちゃんも結構、変な女子高生で変な人に振り回されつつも……という感じの話になっている。しかし、2章の後半で事件が起こり、弓子は血を吸ってしまうが……
「血を吸ったはず」にもかかわらず、なぜか「血を吸っていない」ことになっている弓子。意識を取り戻した時、すでに10日間は終わっていた。「?」が残る中、何があったのかを探り始め、吸血鬼の歴史、その在り方、そして、Qがしてくれたことがわかってきて……と急展開していくことに。
後半の流れの中で、考えさせられるのは「ルール」と「正義」の関係性かな? 吸血鬼が人間社会で、平穏な生活をするためには、昔のように人の血を吸って……とかやっていたのではダメ。だから、それを防ぐルールが必要。これはわかるところ。しかし、弓子が血を吸うことになったのは、人の命を救うため。そして、そのための行為をした自分の罪をQは被った。だが、それはQのルール違反を意味する。それを罰することは良いことなのか? さらに、血を吸わない、というのは吸血鬼にとって、本来は不自然なこと。そんな考えにも触れる中、弓子は……
序盤のほのぼのとした日常から、当たり前だと思っていた吸血鬼社会のルールに対するモヤモヤ。そして、弓子の決断とスリリングな冒険へ。劇的にカラーが変わった、という感じでもないけど、気づけば大きく変わっている。この辺りのスライドのさせ方が見事。そして、弓子のまっすぐな人間性(?)も気持ちが良い。独特の世界観ではあるけど、読んでいて全く違和感なく読めるし、ちょっと考えさせられ、気持ちよく終われる。そんな作品だった。
No.6454

にほんブログ村
この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。
スポンサーサイト