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僕らは『読み』を間違える

著者:水鏡月聖



志望校に落ちて、滑り止めの芸文館高校に通うことになった竹内優真。中学時代、片思いをし、玉砕した若宮雅と会うために一本早い電車で学校へ行き、一人、朝読書に励む日々。そのきっかけすらもが「読み違い」で……
第27回スニーカー大賞・銀賞受賞作。
あとがきによると、選考会において「2回目の方が面白い」という評価をされた、ということなのだけど、それはすごくわかる気がする。
正直なところ、物語序盤は、「これ、何の話なの?」という感じをどうしても受けてしまう。冒頭に書いたように、志望校に落ちた。中学時代、片思いをしていた若宮雅と話を合わせるために読書家……の振りをした。現在入っている部活の部長は、BL同人誌が大好き。……なんていう情報が、断片的にはわかるのだけど、本当に断片的で話がどういうものかよくわからない。そんな感じで読み進めることになった。
ただ、じゃあ全く面白くないのか、というわけじゃなくて、作中でしばしば挟まれる文学解釈とか、そういうものは素直に楽しい。例えば芥川龍之介の『蜘蛛の糸』に対するひねくれまくった解釈の感想だとか、部長が書いた『走れメロス』ならぬ『恥れ(はじれ)エロス』だのの描写は笑ってしまう。しまうのだけど、でも、何か共感できるところもあって……というので楽しかった。
が、物語は中盤くらいになると、大分様相が変わってくる。雅に恋し、似非文学青年になった優真。しかし、そのきっかけとなった消しゴムのメッセージ。学年代表になったイケメン・黒崎大河と部長の間にあるアレコレ。さらに、そのことをきっかけに、それぞれが少しずつ掛け違いをしてしまう。そんなそれぞれの思惑と、少しずつのかけ違いによっておこるすれ違い、というようなものが物語のメインへ。このすれ違いが、ある意味、絶妙すぎてどうしてそうなった! と言いたくなるような感じに。まぁ、それが青春モノっぽさ、と言えば、その通りなのだけど。
というようなものが、自分の感想なのだけど、そういう部分があるため、序盤は、文学作品の解釈論などを中心に。後半は、それぞれのキャラクターの掛け違いを楽しんだ、という印象。そして、だからこそ、一度読んだ後、もう一度、序盤のエピソードを読み返すと、より楽しめる、という評価につながったのだとも思う。

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Tag:小説感想角川スニーカー文庫水鏡月聖

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