著者:高野和明


1994年冬、女性月刊誌の記者・松田は心霊ネタの記事を書くように命じられる。その中でたどり着いた東京・下北沢の踏切では、侵入者による列車の非常停止が相次いでおり、その場所の映像に奇妙なものが映っていた。そして、1年前、その場で身元不明の女性の他殺体があったことが判明するが……
前作『ジェノサイド』以来、実に11年ぶりに刊行された著者の新作。正直、新作は読めないんじゃないかと思っていたよ……
で、かなりのブランクはあるのだけど、やっぱり詠ませてくれる。
冒頭に書いたように、雑誌の心霊特集取材で訪れた下北沢の踏切。そこでは、列車の運転士がしばしば「侵入者」を見て、非常停止する、という事件が相次いでおり、1年前、そこで女性の他殺体が発見された場所でもあった。そこで、新聞記者時代から繋がりのある刑事に連絡を取ると、その女性は近くで暴力団員の男に刺され、瀕死の状態で踏切までやってきたらしい、という。男は逮捕されたが取り調べに何も語らず、しかも、被害者の女性は身元不明だという。そんな感じで、物語は女性が何者なのか? という部分に焦点が絞られて進むことに……
女性はその姿などから水商売、風俗嬢と思われた。そして、聞き込みをする中で、その女性が働いていたキャバクラを発見するが、そこに記されていた名はすべて偽名。職場での評判は悪く、おかしな笑い方をする、という証言が続く。しかし、なぜか高級な銀座のクラブへ移った、という噂もある。なぜ彼女が? その一方で、彼女が働いていたキャバクラの背後にいたのは……
実在はしているものの、しかし、身元がハッキリとしない女性。昨今の時代を舞台にしていれば、無戸籍とか、そういう方向に行くのだろうけど、本作の舞台は1994年。日本の時代としてはバブルが崩壊し、しかし、まだ残り香があった時代。そして、現在のように暴力団に対する厳しい法的な規制がない時代。水商売などの裏に暴力団がおり、政治家との繋がりなども普通にあった。そんな時代の空気。そして、ただの心霊特集。女性の身元捜し、という地味な題材なもに、何があったのかが気になり、やがて政界との繋がりへ……とどんどん広がっていく。このストーリーテーリングの巧みさはやはり見事。
この物語、幽霊の存在というのが(主人公の松田自身、疑ってはいるが)前提となっており、実際に心霊現象も発生する。けれども、物語はあくまでも現実の事件を追う形で進んでおり、ホラー小説という感じはほぼなかった。むしろ、その存在が、妻を喪った傷を引きずる松田がのめり込む原動力になった、というべきなのだろう。
久々の新作、面白かった。でも、次作はもうちょっと早いペースでお願いします。
No.6467

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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
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1994年冬、女性月刊誌の記者・松田は心霊ネタの記事を書くように命じられる。その中でたどり着いた東京・下北沢の踏切では、侵入者による列車の非常停止が相次いでおり、その場所の映像に奇妙なものが映っていた。そして、1年前、その場で身元不明の女性の他殺体があったことが判明するが……
前作『ジェノサイド』以来、実に11年ぶりに刊行された著者の新作。正直、新作は読めないんじゃないかと思っていたよ……
で、かなりのブランクはあるのだけど、やっぱり詠ませてくれる。
冒頭に書いたように、雑誌の心霊特集取材で訪れた下北沢の踏切。そこでは、列車の運転士がしばしば「侵入者」を見て、非常停止する、という事件が相次いでおり、1年前、そこで女性の他殺体が発見された場所でもあった。そこで、新聞記者時代から繋がりのある刑事に連絡を取ると、その女性は近くで暴力団員の男に刺され、瀕死の状態で踏切までやってきたらしい、という。男は逮捕されたが取り調べに何も語らず、しかも、被害者の女性は身元不明だという。そんな感じで、物語は女性が何者なのか? という部分に焦点が絞られて進むことに……
女性はその姿などから水商売、風俗嬢と思われた。そして、聞き込みをする中で、その女性が働いていたキャバクラを発見するが、そこに記されていた名はすべて偽名。職場での評判は悪く、おかしな笑い方をする、という証言が続く。しかし、なぜか高級な銀座のクラブへ移った、という噂もある。なぜ彼女が? その一方で、彼女が働いていたキャバクラの背後にいたのは……
実在はしているものの、しかし、身元がハッキリとしない女性。昨今の時代を舞台にしていれば、無戸籍とか、そういう方向に行くのだろうけど、本作の舞台は1994年。日本の時代としてはバブルが崩壊し、しかし、まだ残り香があった時代。そして、現在のように暴力団に対する厳しい法的な規制がない時代。水商売などの裏に暴力団がおり、政治家との繋がりなども普通にあった。そんな時代の空気。そして、ただの心霊特集。女性の身元捜し、という地味な題材なもに、何があったのかが気になり、やがて政界との繋がりへ……とどんどん広がっていく。このストーリーテーリングの巧みさはやはり見事。
この物語、幽霊の存在というのが(主人公の松田自身、疑ってはいるが)前提となっており、実際に心霊現象も発生する。けれども、物語はあくまでも現実の事件を追う形で進んでおり、ホラー小説という感じはほぼなかった。むしろ、その存在が、妻を喪った傷を引きずる松田がのめり込む原動力になった、というべきなのだろう。
久々の新作、面白かった。でも、次作はもうちょっと早いペースでお願いします。
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