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暗闇の非行少年たち

著者:松村涼哉



少年院を退院した水井ハノ。更生、独り立ちを誓い、居酒屋に勤め始めるものの全く上手くいかず、市販薬のオーバードーズをしながら繁華街に繰り出す日々。そんなとき、知人に誘われたハーブの封筒に入っていたメッセージ「ネバーランドへの招待状」。そこで、管理人のティンカーベル。そして、同じような境遇の少年たちと出会い……
デビュー作から、少年の「生きづらさ」を描いている著者なのだけど、本作もそれは変わらず。今回は、犯罪行為に手を染めてしまった過去を持つ少年たち、というのがテーマ。
冒頭に書いた粗筋だと水井ハノが主人公のような印象だけど、実質的には、連作短編のような形式。ただし、それぞれに焦点を当てるような形になっている。
で、最初のハノ。進学校に進んだものの、そこで成績は低迷。素直に、自分がいま、そういう状態だといえずに、家から逃げ出し、非行へ……。少年院での生活を経て、更生を誓うものの、やはり生活に馴染めない。しかも、生活の場は、身元保証人になってくれた会社代表が持つ社員寮なので逃げることもできない。そんな状況での憂さ晴らしに再び……。そんな日々。そんなとき、メタバースである「ネバーランド」を知り、そこでのやり取りを通して……。罪を犯した=不真面目、みたいな印象があるが、そうではないから却ってドツボにはまっていく。そのことをまず考えさせられる。
そして、そこで知り合った少年・真二。小説を書くのが好きで、それを見込まれ、クラスメイトの大翔から「お笑い芸人」の相方に誘われる。だが、ヤンチャ好きな大翔は、無免許でのバイク事故で死亡。同乗していた自分は生き残って……。法的に罪は問われない。だが、相方を死なせた責任の一端は自分にある。そんな自分が「夢」を語れない。そして、そんなハノや真二のやり取りを見守るカノン。彼女は、中学時代、酷いイジメを受けた末に、相手を殺害してしまった。殺したことは罪。しかし……
罪は罪。けれども、ただ一方的に彼らだけが悪かったのか? 真面目に罪と向き合おうと思えば思うほどに表出してくる矛盾。そして、そんな居場所のない存在を利用しようとする大人の存在……。
物語の最後は、管理人であるティンカーベルの正体。そして、「ネバーランド」の目的。そんなところに物語が収束はしていくのだけど、その部分よりも、罪に対する償い。更生。それを巡っての生きづらさ。矛盾。そういう部分の描き方が印象に残る作品だった。

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Tag:小説感想メディアワークス文庫松村涼哉

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