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みちびきの変奏曲

著者:内山純



東京・中野で起きた通り魔事件。死亡した女性・清藤真空の最期を看取った人材派遣会社の社員・棚橋は、彼女が最期に残したメッセージの真意を知るべく、彼女を知る人々を訪ねていく……
という連作短編形式の物語。
で、読んでいてまず思ったのは、著者のこれまでの作風とは大分変えてきたな、という印象。これまでの作品は、日常の謎と言われるジャンルの作品。そして、登場人物が不思議な出来事を持ち寄って、あーでもない、こーでもない、とワイワイと仮説の構築、その否定を繰り返して、というような形で真相に迫る、というもの。
しかし、本作の場合は、そうではない。冒頭に書いたように、通り魔事件で死亡した真空という女性が最後に見せた謎の動き。棚橋がそれを探る、というものに。その中で、彼女にゆかりのある面々を訪ね、話を聞く。そんな棚橋に対応する人々は、何らかのトラブルなどを抱えているのだけど、話を聞いてくれる棚橋。そして、会話の中のちょっとした一言などで、それを解消するヒントを見つける……という形で展開していく。トラブル解消、という意味では日常の謎かもしれないけど、謎解きをして、という形ではなく自分で勝手に、という形。
例えば、第2章。いつもイライラとした気分が抜けない建築士の神崎。仕事について、事務所の社長について……こだわりを強く持つ神崎は、妥協などをするそれに苛立っている。そんなときに訪れた棚橋。彼との会話の中で思い出すのは、真空に対しては、そんな気持ちを抱くことはなかったこと。そして、棚橋に対してもまた……。なぜ、真空についての話の中、神崎はなぜ自分が苛立たないのか? というのを訪ねる。本当、気持ちの持ちよう、ということになるのだろうけど、その一つが人間関係を円滑にとか、そういうヒントにという結末が美しい。
ひっくり返し、という意味では第6章。親が作った養護施設を引き継いだ啓子。だが、収入は少なく運営は厳しい。そんなとき、婚約者は同級生の女性コンサルタントを連れてくる。そして、その頃から恋人の様子がおかしく。婚約者が浮気? さらに、自分の命を狙っているようにも感じられるところがあって……。「変わってしまったのは誰か?」 棚橋のそんな言葉。そこから導き出されたひっくり返しはちょっと驚いた。
そして、そんな棚橋が、真空について調べていた真意が語られる終章。
共感性が強い、と聞き込みの中でも語っていた棚橋。しかし、そんな彼がそれまでしていたことは……。相手に共感をする、ということは会話などで大切なこと。しかし、それが強すぎることで、その場の空気に染まってしまう。そして、それは時に刃にもなってしまう。そんな特性を持つ棚橋が犯してしまった罪、後悔……。刑事事件というわけではない。不幸な事故という面もある。けれども、自分にとっては……。そんな棚橋の性格は……やはり共感性の高い人物と言えるのだろう。そんな風に思う。

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Tag:小説感想内山純

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