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十三夜の焔

著者:月村了衛



天明4年5月の十三夜。番方・幣原喬十郎は湯島の路上で、男女の惨殺体と、その傍らで涙を流す男を発見する。喬十郎は事情を問うものの隙をつかれ、男をとり逃してしまう。やがて、その男は盗賊「大呪の代之助」の一味である千吉であると判明する。事件を追う中、喬十郎は千吉と再び相まみえることとなるが、千吉は殺害を否定し、再び姿をくらましてしまう。そこから、二人の長きにわたる因縁が始まり……
著者の時代モノは久々。ただ、数十年に渡る物語。そして、田沼意次やら長谷川平蔵と言った実在の人物が登場し、喬十郎、千吉の物語の背景を彩る、というのは、著者がしばしば用いる作風の一つという感じがする。
ともかく、物語としては、江戸の治安を守る御先手組の若武者である喬十郎と、盗賊である千吉の邂逅から始まる。当初は殺しを操作する側と下手人候補という関係性。だが、その事件が有耶無耶の中で終わり、十年の時を経たとき、千吉は喬十郎の前に再び現れる。両替商の利兵衛として……
利兵衛の正体が盗賊であると知っている喬十郎。そして、十年前の殺人の下手人としても追っている。だが、表向きはまっとうな商人であり、そのための体裁も整えている利兵衛に手出しはできない。一方で、利兵衛は、盗賊としての「裏の顔」を買われ、両替商の座につくことなった。そして、彼の頭にあるのは、十年前の殺人で情婦を喪い、喬十郎の介入によって有耶無耶になったことを恨んでいる。そんな中での邂逅。互いに不信感を抱きながらも目の前の事件について取り組む中……
それぞれ、対立する立場で争い合う二人、その中で互いに引っ掛かるのは邂逅の発端となった殺人。そして、時代が下っていく中で、それぞれの立場にも変化が起こっていって……
利兵衛は、盗賊という誰が見てもわかりやすい「悪人」。しかし、その背景にはさらなる存在がいて、そして、全てを操っていたのは?
よく「犯罪をなくすためには、法律をなくすのが一番」なんてジョークがあるけれども、全てのルールは上の存在が作るもの。では、その上の存在は清廉潔白なのか? 当然、そんなことはなく、政権の中にあっても派閥争いがあり、権力争いがあり、そこにいるのもまた人間。当然、理性的な行動ばかりをとるわけではない。そんな中で、二人はひたすらに振り回され続けていた……。発端となった殺人そのものが、そういう「人間」の思惑の中で起きたことで、そこからの因縁に長くとらわれていた。そして、表と裏、双方の立場だったからこそ、誰よりも互いのことを理解しあうことができた。エピローグまで読み終えると、そんな両者の関係性というのを描き切った作品だったんだな、と思わせてくれる。

No.6511

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Tag:小説感想月村了衛

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