著者:赤神諒


寛文6年。豊後国・竹田藩で、城代の一族郎党24人が殺害される事件が起こる。それから十四年。一族の生き残りで、江戸で剣術を学んだ山川才次郎は、剣術師範として竹田藩を訪れる。すべては、一族を亡き者にした現城代・玉田巧佐衛門への復讐を果たすため。だが、その巧佐衛門は、みすぼらしい姿で、地位や名誉に興味を示さない変わり者、「はぐれ鴉」と呼ばれる存在となっており……
第25回・大藪春彦賞受賞作。
最近、大藪賞の受賞作に時代小説が多くなっている気がする。本作の著者も、時代小説の舞台で活躍している人だな、という印象だったし。ただ、そういう作家を読む機会を得る、というのが、こういう賞を追いかける醍醐味なんだろうな、というのを感じる。
というわけで、本作。冒頭の粗筋では、才次郎が復讐の志を持って竹田藩へやってくる、というところから書いたけど、本編はその前日譚から始まる。その際に、下手人は才次郎の叔父であり、現城代である巧佐衛門であることは明らか。だからこそ、その志を果たすために……。だが、訪れた竹田藩には奇妙な点が多くあり……
読んでいて、まず思ったのが、復讐のために訪れたのに才次郎が結構、チョロいってことかな? 家老である三宅に呼ばれた才次郎だけど、国を富ますことを目指すという竹田藩の藩士たちは武に対しての意欲が低く、才次郎の元を訪れるものすら稀、という状況。さらに、それは意欲の問題だけでなく、三宅の思い付きのよう雑用などが多くあり、それどころではない、という状況も垣間見える。そんな中、巧佐衛門の娘・英里と出会い、だんだんと彼女に惹かれていって……。さらに、巧佐衛門が長年にわたって取り組んでいる堤の建設を手伝うことになる。なんか、復讐のために訪れたのだけど、あっという間に取り込まれているんだもの。
ただ、そうはいっても、その理由というのがちゃんとわかるから、っていうのは大きい。
「変わり者」と言われている巧佐衛門。確かに、その通りではある。しかし、その行動は常に藩の人々のためを思ってのものであり、しかも、清廉潔白。だからこそ、わからないのは、なぜ、才次郎の一族を殺害する、というような凶行に走ったのか? そんなところへと物語の謎がシフトしていく。そして……
早い段階で疑問視されていた竹田藩の不可解な部分が意味するもの。巧佐衛門がどういう人物なのか、というのを中盤まででしっかりと描いたからこそ、藩の秘密が判明したところで巧佐衛門の行動の意味が分かる。そして、その巧佐衛門が最後にしようとしていたことも。物語の時代背景。九州、豊後という舞台。そういうものがしっかりと意味を為し、巧佐衛門という人物の存在感がより鮮明になっていく。
才次郎の視点で描かれるのだが、しかし、巧佐衛門という人物の生きざまがこれでもかと感じられる。そんな物語に昇華している。
No.6543

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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
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寛文6年。豊後国・竹田藩で、城代の一族郎党24人が殺害される事件が起こる。それから十四年。一族の生き残りで、江戸で剣術を学んだ山川才次郎は、剣術師範として竹田藩を訪れる。すべては、一族を亡き者にした現城代・玉田巧佐衛門への復讐を果たすため。だが、その巧佐衛門は、みすぼらしい姿で、地位や名誉に興味を示さない変わり者、「はぐれ鴉」と呼ばれる存在となっており……
第25回・大藪春彦賞受賞作。
最近、大藪賞の受賞作に時代小説が多くなっている気がする。本作の著者も、時代小説の舞台で活躍している人だな、という印象だったし。ただ、そういう作家を読む機会を得る、というのが、こういう賞を追いかける醍醐味なんだろうな、というのを感じる。
というわけで、本作。冒頭の粗筋では、才次郎が復讐の志を持って竹田藩へやってくる、というところから書いたけど、本編はその前日譚から始まる。その際に、下手人は才次郎の叔父であり、現城代である巧佐衛門であることは明らか。だからこそ、その志を果たすために……。だが、訪れた竹田藩には奇妙な点が多くあり……
読んでいて、まず思ったのが、復讐のために訪れたのに才次郎が結構、チョロいってことかな? 家老である三宅に呼ばれた才次郎だけど、国を富ますことを目指すという竹田藩の藩士たちは武に対しての意欲が低く、才次郎の元を訪れるものすら稀、という状況。さらに、それは意欲の問題だけでなく、三宅の思い付きのよう雑用などが多くあり、それどころではない、という状況も垣間見える。そんな中、巧佐衛門の娘・英里と出会い、だんだんと彼女に惹かれていって……。さらに、巧佐衛門が長年にわたって取り組んでいる堤の建設を手伝うことになる。なんか、復讐のために訪れたのだけど、あっという間に取り込まれているんだもの。
ただ、そうはいっても、その理由というのがちゃんとわかるから、っていうのは大きい。
「変わり者」と言われている巧佐衛門。確かに、その通りではある。しかし、その行動は常に藩の人々のためを思ってのものであり、しかも、清廉潔白。だからこそ、わからないのは、なぜ、才次郎の一族を殺害する、というような凶行に走ったのか? そんなところへと物語の謎がシフトしていく。そして……
早い段階で疑問視されていた竹田藩の不可解な部分が意味するもの。巧佐衛門がどういう人物なのか、というのを中盤まででしっかりと描いたからこそ、藩の秘密が判明したところで巧佐衛門の行動の意味が分かる。そして、その巧佐衛門が最後にしようとしていたことも。物語の時代背景。九州、豊後という舞台。そういうものがしっかりと意味を為し、巧佐衛門という人物の存在感がより鮮明になっていく。
才次郎の視点で描かれるのだが、しかし、巧佐衛門という人物の生きざまがこれでもかと感じられる。そんな物語に昇華している。
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