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数学の女王

著者:伏尾美紀



北海道、札幌に新設される大学院大学で爆破事件が発生。刑事部と公安の駆け引きが展開される中、博士号を持つ移植の女性刑事・沢村依理子は突如、道警捜査一課へ異動となり、班を任されることに。ぎこちない状況で、班員をまとめ、捜査に当たることになるのだが……
『北緯43度のコールドケース』の続編にあたる作品。
まず最初に書くと、デビュー作と比べると物語の構成などがすっきりとして格段に読みやすくなった。本作の場合、序盤は沢村が異動して、でも事件に直接関与しないという描写が続くのでちょっともどかしいところはあるのだけど、物語が動き出してからはグングンと読み進めることができた。
冒頭に書いたように、札幌に新設される大学で起きた爆破事件。それにより、荷物の搬入などをしていた学長の秘書。そして、たまたま近くにいた学生が死亡。その状況から、学長を狙ったものではないか? という疑惑が現れる。しかし、近隣の山で、爆破実験などをした痕跡もあり、テロの可能性も捨てきれない。学長を狙ったものだとすると、その理由は何なのか? それを調べる中、大学を設置するにあたっての騒動。その中で、設置を主導した研究者が学長になれず、副学長になっていたことが判明する。
副学長が犯人なのか? しかし、資産家の家に生まれ、学長にはなれなかったというものの副学長であり、理事なども自分の派閥と言える人物が多数派。プライドの問題と言えば、理由にはなるが、そんな事件を起こすのかと言われると腑に落ちない。一方で、副学長の書いたエッセイにつづられた家族の様子には何か歪なものがある。さらに、狙われた学長の過去などともつながりが出てきて……
前作のエピソードで、沢村の恋人が大学院でアカハラを受け、自殺した、という過去があり、その過去のアレコレは今回の物語にもつながってくる。現在であっても理系の学部などにいる女性は「リケジョ」などと言われ、珍しがられる。現在でもそうだから、過去は……。文系理系の違いはあれども、博士号を持つ沢村。ある程度、そういった大学やら、学問やらの世界は知っている人物。しかし、そんな彼女ですら見落としてしまったこと。
読んでいる中である程度、「犯人は……」と予測できてしまった部分はあるのだけど、大学、それも大学院の研究室などに籍を置いていた沢村だからこそたどり着ける真相。その犯人に対する共感……。そういうものがしっかりと回収されており、納得のできる結末だった。
……ただ、序盤の人事を巡るところとか、過去の恋人とのこととか、そういうのは前作を読んでいないとわかりづらいのが、ちょっともったいないかも。

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