著者:中山七里


勤めていたメーカーが倒産し、元刑事の五百旗頭が経営する特殊清掃業者・エンドクリーナーに就職した香澄。そんなエンドクリーナーには、人が死亡した部屋の片づけの依頼が次々に入る。凄惨な現場を片付ける中、死亡した人々の事情が浮かび上がってきて……
という連作短編集。全4編を収録。
ミステリ作品という意味では、その通り、死亡した人の事情とか、そういうものの中でのひっくり返しのようなものはある。ただ、変に事件にしたりとか、そういうことがなくて、素直に楽しめた。
1編目『祈りと呪い』。アパートの一室で30代の女性が孤独死した。事件性はなく、女性は会社を退職した後、引きこもり状態になった末だった。ただ、その現場には「みんな、滅びろ」というメッセージが残されていて……。そんな中で、香澄の胸に浮かぶのは、なぜ女性は会社を辞めたのか? という疑問。遺品整理、という形で、生前を知る者に話を聞くのだが……
職場では、仕事の呑み込みが早く頼りにされていた女性。しかし、ある出来事が原因で会社を辞めざるを得なくなっていた。一方で、自慢の娘、と言いつつ、何か自分の価値観を絶対と思われるような女性の母親。そんな彼女が抱えていたものは……。丁度、昨今、話題になっていることの一つを題材にしつつも、アクセント程度でまとめるバランス感覚もよかった。
個人的に最も好きなのは3編目『絶望と希望』。香澄の先輩である白井。そんな白井が一人で担当することとなったのは、部屋で熱中症の末に死亡した男の部屋。そして、その男は、かつて白井と共にバンドを組んでいた男だった。バンドの解散後、別の道へ進んだ白井とは違い、曲作りのセンスのあった男は頑張っていると思っていたのだが……。そんな男の遺品に、彼の曲を発見する。だが、それは、やはりバンド仲間で、今なお、ボーカリストとして曲を発表している女の新曲そのもの。だが、その曲の作曲者は、彼女自身ということになっていて……
かつて行動を共にしつつ、しかし、道をたがえた仲間たち。そんな仲間の訃報と、その中で浮かび上がる疑惑。自分自身の後悔とか、そういう感傷とかがせりあがりつつも、なぜ、作曲者が変わったのか、という謎へ向き合うことに。その中で知った、男の最後の想い。バンド仲間の関係性もさることながら、作中、1編目、2編目ではほぼ語られんかあった白井の掘り下げにもなっていて印象深かった。
4編目『正の遺産と負の遺産』については、ちょっとカラーが異なる感じ。遺産整理、形見分け、というところの部分が強く出て……という話。亡くなった資産家の遺産を、その子供たちが争って……という話で、そこに策略とかもあるのだけど……。正直なところ、このオチは法的にどうなの? と思うところが……。相続権を失う人物がいて、確かにろくでもないのは確かだけど……この人ははっきりと被害者のような気がするのだけど……。このエピソードについては、ちょっとイマイチな気がした。
No.6555

にほんブログ村
この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。
勤めていたメーカーが倒産し、元刑事の五百旗頭が経営する特殊清掃業者・エンドクリーナーに就職した香澄。そんなエンドクリーナーには、人が死亡した部屋の片づけの依頼が次々に入る。凄惨な現場を片付ける中、死亡した人々の事情が浮かび上がってきて……
という連作短編集。全4編を収録。
ミステリ作品という意味では、その通り、死亡した人の事情とか、そういうものの中でのひっくり返しのようなものはある。ただ、変に事件にしたりとか、そういうことがなくて、素直に楽しめた。
1編目『祈りと呪い』。アパートの一室で30代の女性が孤独死した。事件性はなく、女性は会社を退職した後、引きこもり状態になった末だった。ただ、その現場には「みんな、滅びろ」というメッセージが残されていて……。そんな中で、香澄の胸に浮かぶのは、なぜ女性は会社を辞めたのか? という疑問。遺品整理、という形で、生前を知る者に話を聞くのだが……
職場では、仕事の呑み込みが早く頼りにされていた女性。しかし、ある出来事が原因で会社を辞めざるを得なくなっていた。一方で、自慢の娘、と言いつつ、何か自分の価値観を絶対と思われるような女性の母親。そんな彼女が抱えていたものは……。丁度、昨今、話題になっていることの一つを題材にしつつも、アクセント程度でまとめるバランス感覚もよかった。
個人的に最も好きなのは3編目『絶望と希望』。香澄の先輩である白井。そんな白井が一人で担当することとなったのは、部屋で熱中症の末に死亡した男の部屋。そして、その男は、かつて白井と共にバンドを組んでいた男だった。バンドの解散後、別の道へ進んだ白井とは違い、曲作りのセンスのあった男は頑張っていると思っていたのだが……。そんな男の遺品に、彼の曲を発見する。だが、それは、やはりバンド仲間で、今なお、ボーカリストとして曲を発表している女の新曲そのもの。だが、その曲の作曲者は、彼女自身ということになっていて……
かつて行動を共にしつつ、しかし、道をたがえた仲間たち。そんな仲間の訃報と、その中で浮かび上がる疑惑。自分自身の後悔とか、そういう感傷とかがせりあがりつつも、なぜ、作曲者が変わったのか、という謎へ向き合うことに。その中で知った、男の最後の想い。バンド仲間の関係性もさることながら、作中、1編目、2編目ではほぼ語られんかあった白井の掘り下げにもなっていて印象深かった。
4編目『正の遺産と負の遺産』については、ちょっとカラーが異なる感じ。遺産整理、形見分け、というところの部分が強く出て……という話。亡くなった資産家の遺産を、その子供たちが争って……という話で、そこに策略とかもあるのだけど……。正直なところ、このオチは法的にどうなの? と思うところが……。相続権を失う人物がいて、確かにろくでもないのは確かだけど……この人ははっきりと被害者のような気がするのだけど……。このエピソードについては、ちょっとイマイチな気がした。
No.6555

にほんブログ村
この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。
スポンサーサイト