著者:藤崎翔


弱冠24歳にて、U県警独鯉署の刑事課強行犯係に抜擢された大磯拓真。祖父の信夫は、数々の難事件を解決に導いてきた名刑事であり、拓真自身も同様に事件を解決した推理の天才だと考えている。……が、実は信夫の手柄は妻の八重子の推理のたまもの。そして、幽霊となった八重子は、守護霊として拓真の手助けをしていた。そんな八重子は、刑事課に抜擢された孫を導くべく、警察署前のコンビニでバイトをする美久に協力を求めて……
という連作短編集。全5編を収録。
まず最初に書いておくと、物語は基本的にワンパターン。事件が発生し、拓真たちが現場へと駆けつける。その中で容疑者が判明し、現場状況などのヒントを入手する。だが、拓真たちの推理は別の方向へ行ってしまう。そんな状況に苛立った八重子は、コンビニ店員の美久に、ヒントとなる言動をするよう依頼し、それを見た拓真が、自分の見落としに気づいて解決へ導く……という形。
読んでいて思うのだけど、八重子が非常に優秀である、というのは間違いない。けれども、八重子が言うほど拓真も間が抜けている、というわけじゃないと思う、ということ。少なくとも、八重子が美久を通して与えるヒントを見て、「こうだったのか!」と気づくくらいには推理力とか、観察力とはあるわけだし。
てなことで1編目『愛憎のもつれ』。芸大に通う女子大生が殺害された。同じアパートの住人に対する聞き込みから、この女子大生は教授と交際しており、教授に対して奥さんと別れるよう迫っていた。そんな中、容疑者として教授をマークすることになるのだが……。ヒントとなるのは、被害者が教授に送ったプレゼントの荷物。現場にあったメモから真犯人が送った、ということになるのだけど……まぁ、メモだけ見れば確かにそう思う人はいるだろうな……。ただ、世代だけで判断するのはちょっと無理があるような気はする。
個人的に一番、その辺りが上手かったな、と感じたのは4編目『誘拐』。市内でも有数の資産家の娘が失踪した。散歩中の犬を残して。資産家に恨みを抱く人間をピックアップし、容疑者としてマークするものの、しばらくの後、その娘は無事に保護された。自分でもどこに連れ去られたのかわからない、という娘は、犯人の車が途中で立ち寄ったコンビニを語るのだが……
いや、これ計画としては完璧だと思うんだ(その後はともかくとして) たまたま、その事件が起きた日が、思わぬタイミングだった、というだけで……。そこに気づいた八重子の観察眼の冴えも見事。完璧な計画と、そのわずかな落とし穴を見逃さなかった八重子、というところの組み合わせが素直に見事だと感じた。
まあ、でも、この作品……。どう考えても一番の苦労人は、八重子に振り回される美久だよな……間違いなく。
No.6560

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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
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弱冠24歳にて、U県警独鯉署の刑事課強行犯係に抜擢された大磯拓真。祖父の信夫は、数々の難事件を解決に導いてきた名刑事であり、拓真自身も同様に事件を解決した推理の天才だと考えている。……が、実は信夫の手柄は妻の八重子の推理のたまもの。そして、幽霊となった八重子は、守護霊として拓真の手助けをしていた。そんな八重子は、刑事課に抜擢された孫を導くべく、警察署前のコンビニでバイトをする美久に協力を求めて……
という連作短編集。全5編を収録。
まず最初に書いておくと、物語は基本的にワンパターン。事件が発生し、拓真たちが現場へと駆けつける。その中で容疑者が判明し、現場状況などのヒントを入手する。だが、拓真たちの推理は別の方向へ行ってしまう。そんな状況に苛立った八重子は、コンビニ店員の美久に、ヒントとなる言動をするよう依頼し、それを見た拓真が、自分の見落としに気づいて解決へ導く……という形。
読んでいて思うのだけど、八重子が非常に優秀である、というのは間違いない。けれども、八重子が言うほど拓真も間が抜けている、というわけじゃないと思う、ということ。少なくとも、八重子が美久を通して与えるヒントを見て、「こうだったのか!」と気づくくらいには推理力とか、観察力とはあるわけだし。
てなことで1編目『愛憎のもつれ』。芸大に通う女子大生が殺害された。同じアパートの住人に対する聞き込みから、この女子大生は教授と交際しており、教授に対して奥さんと別れるよう迫っていた。そんな中、容疑者として教授をマークすることになるのだが……。ヒントとなるのは、被害者が教授に送ったプレゼントの荷物。現場にあったメモから真犯人が送った、ということになるのだけど……まぁ、メモだけ見れば確かにそう思う人はいるだろうな……。ただ、世代だけで判断するのはちょっと無理があるような気はする。
個人的に一番、その辺りが上手かったな、と感じたのは4編目『誘拐』。市内でも有数の資産家の娘が失踪した。散歩中の犬を残して。資産家に恨みを抱く人間をピックアップし、容疑者としてマークするものの、しばらくの後、その娘は無事に保護された。自分でもどこに連れ去られたのかわからない、という娘は、犯人の車が途中で立ち寄ったコンビニを語るのだが……
いや、これ計画としては完璧だと思うんだ(その後はともかくとして) たまたま、その事件が起きた日が、思わぬタイミングだった、というだけで……。そこに気づいた八重子の観察眼の冴えも見事。完璧な計画と、そのわずかな落とし穴を見逃さなかった八重子、というところの組み合わせが素直に見事だと感じた。
まあ、でも、この作品……。どう考えても一番の苦労人は、八重子に振り回される美久だよな……間違いなく。
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