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斜陽の国のルスダン

著者:並木陽



ヨーロッパの東の果て、ジョージア王国。勢力を拡大させ、全盛期を作り上げた母・タマル。その跡を継いだ兄・ギオルギの元、王女ルスダンは幸せな時を過ごしていた。だが、そんな時代は終わりに向かっていた……。突如として起きたモンゴル軍の襲来。兄の急死を受け、ルスダンは女王となるのだが……
元々は自費出版として刊行され、その後、宝塚歌劇団の題材となるなどし、書籍化されたという経緯を持つ本書。
物語としては、冒頭に書いたように13世紀のジョージア(グルジア)の女王・ルスダンを主人公にした歴史小説ということになるのかな? ただ、ジョージア王国の歴史、もっと言うなら女王ルスダンという存在自身についての知識が全くなかったため、どこが通史通りで、どこからが脚色なのか、というのはよくわからないのだけど。
ただ、あとがきによれば、無能な女王とか、そういう評価が多いスルダンに対して、そうではなかったのでは? というところから描き始めた、というのがよくわかる。母である女王により、大きな勢力を作り上げ、そんな母のあとは兄がしっかりと継いでいる。ごくごく順調に国が動いている時代。だからこそ、母も、兄も政治の思惑に流されぬよう彼女を育ててきた。だが、まったく思わぬ方向からやってきたモンゴル軍の襲撃によってそんな平和は終わってしまう……
政治経験もないままに女王となったルスダン。彼女を支える夫は、キリスト教に改宗したとはいえ、イスラム強国の王子。夫に対する信頼はあるが、重臣たちはそんな夫に対し、不信感を抱く。それでも……そう思いつつ、夫が「敵の敵は味方」と祖国へ連絡をしていることを知り……。互いに互いのことを愛しつつ、しかし、わずかな心の隙によって生じてしまったすれ違い。そして、その両者の運命。この辺りは宝塚で舞台化された作品らしいな、というのを感じた。
その上で、著者が「そうではなかったのでは?」と思うのもよくわかる。自分の場合、時々、日本の歴史小説とかを読んでいるけど、戦国時代を舞台にした作品とかでも、一つのことをきっかけにして、本人の才能とか、そういうものではどうしようもないほどに状況が悪化してしまって……ということは数多くある。それでも、戦国時代とかなら、ある程度は、価値観とかは共通したものがある。けれども、そもそもがキリスト教とイスラム教という十字軍があるように、宗教上の対立なども多かった時代。国そのものの利害関係。その国の中の権力争い。さらに、宗教という価値観そのものを巡る対立なども存在している。その状況で……というのは日本の戦国時代とか以上に難しいことは間違いないはず。そんな時代に翻弄されたルスダンが無能だったのか? というと、反発してみたくなる気持ちはよくわかる。
本書の物語は、愛する者をすべて失ったルスダンが、国を守るために自死しようとする序章から始まり、本編はルスダンがまだ王女であった時代から、夫との運命に、という部分で完結する。物語としては、一区切りではある。でも、その夫とのことがあってから、その最期までに色々とあったはず。歴史小説という形で描くならば、その出来事とかも少しあれば、序章の彼女の決断がよりドラマチックに感じられたのではないか、という気もする。

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Tag:小説感想並木陽

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