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答えは市役所3階に 2020心の相談室

著者:辻堂ゆめ



2020年、世界を襲った新型コロナ禍。いくつもの「こんなはずじゃなかった」が生まれる中、市役所3階に設置された「こころの相談室」には悩みを抱えた者たちが訪れる。そんな彼らを迎えるのは、女性カウンセラーの晴木と、60台の新米カウンセラー・正木で……
という連作短編集。全5編を収録。
読みながら思うのは、結構、不思議な構成をした話だな、ということ。
冒頭に書いたように、コロナ禍によって「こんなはずじゃなかった」という思いを抱く相談者が、市役所に設置された相談室を訪れ、その悩みを告げる。と言っても、本当にカウンセリングルームであるそこは、市の政策などの案内はできるが話を聞くだけ。しかし、その話を聞いてもらったことで少し心が軽くなり、その周辺での出来事などに変化が訪れる。その点でいうと、ミステリーでも何でもない話。……が、それぞれの相談者の悩みが解決した後、晴川は、相談者は実はこんな隠し事をしていたのではないか? という推理を正木に披露する、という形で締められる。
ここで描かれる悩み事。別にコロナ禍でなくても……というものもあるのだけど、コロナ禍でより強調された部分があるだろうと思うところが多い。
1編目・白戸ゆり。高校3年生であるゆり。合唱部員として活動をしていたが、コロナ禍で部活もできない。不完全燃焼で引退。母子家庭であるため、就職を目指すが、コロナ禍で希望していたブライダル関係の求人も激減。1つだけあるものの、自分よりも成績の良い友人も希望しており、学内での推薦は不可。非正規はダメ、という母の言葉の中、希望していない職種へ行くべきなのか? 別に友人が悪いわけではない。でも、のんきな友人の姿に妬みも感じてしまう。推薦とか、そういう部分は平時でもあるのだろうけど、コロナ禍で極端に……という人は多かったんだろうな、と感じる。
最後の謎解き雑談も含めて一番、面白かったのは4編目・大河原昇。日雇いの仕事などをし、ネットカフェで寝起きをしていた大河原。しかし、コロナ禍で仕事は激減し、ネットカフェも閉鎖。公園で寝泊まりする生活に……。不安定かも知れないがそれなりの生活をできていたのが、激変。公園ではさげすまれ、ちょっとしたトラブルで不良に目をつけられてしまった。ネットカフェ難民なんていう話題は結構前に話題になったけれども、その状況が改善されたわけでもない。そんな状況と、その中である青年と出会い……。ある意味、自堕落な生活を送っていた大河原の再生というのは素直に綺麗だと思う。そして、その後の晴川の推理。相談の中にあった大河原の言葉の中の不可解な言葉の数々。そこから導き出されるのは……このひっくり返しも意外性十分で面白かった。
各編のエピソードの中に実は繋がりが! とか、そういう部分での上手さもある。
ただ、各編の主人公の悩み解消に至る展開はちょっと強引さも感じる部分があるかな? という印象も残った。

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Tag:小説感想辻堂ゆめ

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