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秋雨物語

著者:貴志祐介



4編のエピソードを収録した短編集。
著者の作品はそれなりに読んだことがあるのだけど、考えてみれば、自分が著者の、がっつりとしたホラー作品を読んだのって初めてかもしれない。
『餓鬼の田』。社員旅行の日の朝、ちょっと気になっている同僚の青田が出かけているのを見かけた美晴。追いかけていった先で、青田は自分は「餓鬼」の呪いを受けている、と言い出し……。見た目も格好良く、女性からの人気もある青田。けれども、なぜか彼女がおらず、結婚などはあきらめている、という。なぜならば、自分は餓鬼の呪いを受けているのだという。
ホラーというのともちょっと違うのかな? という印象。真に迫った青田の言葉。しかし、そんな彼が言っていることはどうにも納得できない部分も。だからと言って、否定する気にもなれない。なんか、ある意味で「恋が冷める瞬間」というのを描いた話のように感じる。
『フーグ』。締め切りの日に、失踪した作家・青山。青山の担当である松山が、彼のパソコンに残された原稿を読むことにするのだが、そこにつづられていたのは……
小さなころから、突如、どこかに転移してしまう、という経験をしてきた、という青山。精神科での治療などにより、しばらく抑えてきたものの、最近、再び。そんな中、霊能力者に頼み、それを抑える手段をとることにしたのだが、代わりに悪夢を見るように……。しかし、その悪夢こそが、彼を作家としての作風にもつなげていくのだが……
突如の転移というのは本当なのか? どんどん、その状況が差し迫った状況になっていくことを告げる原稿。現行の中身、さらに、アシスタント女性の言葉からは、それが本当のようにも思える。だが、それでも完全に納得できたのか、と言えば……。原稿の中身は本当のことなのか? それとも? 常にその両者の間で揺れ動き、一つの結論に達するが、しかし……。どちらであっても一つの結論としてはアリ。そんな読後感が印象的だった。
『白鳥の歌』。これについては、あまり語らないのだけど、音楽の趣味を持つ人間には、彼女しか出せない歌声と、そのありえない部分はなぜ起きたのか? だが、彼女を知る者には、その歌声を録音したレコードは「呪い」そのもの。そのギャップは何なのか? 彼女の人生を追う中で出てきた理由は壮絶そのもの。けれども、やはり、彼女にとっては人生の証でもあった……という壮絶な真相。その上で、そんな彼女の人生を追った調査員は……。オチがなければ、それはそれで一つの物語なのだけど、このオチによって後味の悪さ、というのがプラスされたような印象を受ける。
各編、その中で提示されるものが、本当なのか、違うのか? という境界線をさまようスリリングさがあり、その上で、衝撃的、ではないのだけど、ジワジワと嫌な余韻を残す結末が用意されており、その双方の組み合わせ方が上手いな、と感じた。

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Tag:小説感想貴志祐介

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