著者:手代木正太郎


慶応元年、横浜。世界を旅する実業家のハインリヒは、日本を訪れていた。日本という文化に並々ならぬ興味を持つ彼は、八か語を操る湊連太郎をガイドに雇い、外交官しか入れないという江戸に入ることを希望していた。だが、世には外国人を襲う攘夷派の者も多く、ハインリヒもまた、怪しげな男に尾行されていた……(『邪馬台国を掘る』)
著者というと、個人的にはライトノベル作家という印象で、追いかけているシリーズの続編は……と思っていたら、まさかの時代小説を書いていたとは!
ということで、全3編を収録した連作短編集。
まずは、1編目。物語の導入編という側面もあるのだけど、まずは語り部であるハインリヒ。見栄っ張りで、その時々で勢いで物事を言ってしまう。その一方で、並外れたバイタリティで見栄を現実に変えてきた。そんな彼は、日本の文化に魅せられる。その中で、特に興味を持ったのが神話から巡っての天皇家という存在。そして、そこで大和朝廷との繋がりも噂される邪馬台国はどこにあるのか? という部分だった。しかし、それは禁忌ともいえるもので……
とにかく日本の文化に魅せられ、その神話を調べたいというハインリヒ。それはハインリヒの苛立ち。ハインリヒの目には日本の人々は真実を調べるというよりも、いかに神話との整合性をとるのか? という部分に終始。だからこそ、候補があるなら……と思ってしまう。そんな合理性と、でも、日本文化を全く知らないが故の危うさ。そのアンバランスさが非常に魅力的。そして、そんな中で攘夷派に狙われたときに……。勿論、オチとして、守り手が誰なのか? というのが明らかになる導入編なのだけど、同時に、このハインリヒが実は……というオチにそう繋げたか! という感想に繋がった。
2編目『慶応元年の心霊写真』。外国人に対抗するには、その懐に入らねば……。そんな主君の従者として横浜を訪れた間宮。ほかの場所では、目にかかれないような文化に目を奪われる二人。その中で、写真というものに写ってみるのだが、その写真にはなぜか奇妙な顔が……
写真に写ったのは攘夷派によって殺された外国人。日本人が、突如、日本人であるという理由で殺されたら恨みを持たれるはず。それは、外国人だって……。外国人に対抗する、という名目の二人は、そんな言葉にぞっとする。さらに、二人を驚かせるような現象が彼らをまっていて……。この段階で、何らかの仕込みがあるのは明らか。その上で炙り出される間宮の真相。何か、必殺〇〇人っぽいテイストが楽しかった。
3編目『心配性のサム・パッチ』。キリスト教への改宗が禁じられている中、鍼灸医の隆山が改宗した。病で、余命いくばくもない彼であるが、改宗に際し、自分が攘夷派であったことを告白して……。教会で下働きをしているサムこと、漂流人である仙太郎は、両者の間で板挟みになることに……
タイトルにあるように「心配性」とあるように、幼いころから要領が悪く、バカにされてきた仙太郎。同じく漂流された人間はひとかどの存在になる中、うだつの上がらない日々。そんな状況の中で……。自己評価が低く、タイトルの通り心配性。だからこそ、頑なになってしまう仙太郎。そんな彼に協力を求めるため、連太郎、攘夷派の駆け引きが始まる。
自己評価の低い仙太郎の心情の機微。そして、それを取り込んだ決め手、というのは見事の一言。その部分が印象に残るかな。
その上で、開国、それに対する反発というのが跋扈していた時代。その時代の雰囲気を見事に切り取った話だな、というのを感じる。その上でまだ、連太郎の正体とか明かされていない部分も多く、その辺りが今後、明かされていくだろう、ということに期待せざるを得ない。
No.6580

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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
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慶応元年、横浜。世界を旅する実業家のハインリヒは、日本を訪れていた。日本という文化に並々ならぬ興味を持つ彼は、八か語を操る湊連太郎をガイドに雇い、外交官しか入れないという江戸に入ることを希望していた。だが、世には外国人を襲う攘夷派の者も多く、ハインリヒもまた、怪しげな男に尾行されていた……(『邪馬台国を掘る』)
著者というと、個人的にはライトノベル作家という印象で、追いかけているシリーズの続編は……と思っていたら、まさかの時代小説を書いていたとは!
ということで、全3編を収録した連作短編集。
まずは、1編目。物語の導入編という側面もあるのだけど、まずは語り部であるハインリヒ。見栄っ張りで、その時々で勢いで物事を言ってしまう。その一方で、並外れたバイタリティで見栄を現実に変えてきた。そんな彼は、日本の文化に魅せられる。その中で、特に興味を持ったのが神話から巡っての天皇家という存在。そして、そこで大和朝廷との繋がりも噂される邪馬台国はどこにあるのか? という部分だった。しかし、それは禁忌ともいえるもので……
とにかく日本の文化に魅せられ、その神話を調べたいというハインリヒ。それはハインリヒの苛立ち。ハインリヒの目には日本の人々は真実を調べるというよりも、いかに神話との整合性をとるのか? という部分に終始。だからこそ、候補があるなら……と思ってしまう。そんな合理性と、でも、日本文化を全く知らないが故の危うさ。そのアンバランスさが非常に魅力的。そして、そんな中で攘夷派に狙われたときに……。勿論、オチとして、守り手が誰なのか? というのが明らかになる導入編なのだけど、同時に、このハインリヒが実は……というオチにそう繋げたか! という感想に繋がった。
2編目『慶応元年の心霊写真』。外国人に対抗するには、その懐に入らねば……。そんな主君の従者として横浜を訪れた間宮。ほかの場所では、目にかかれないような文化に目を奪われる二人。その中で、写真というものに写ってみるのだが、その写真にはなぜか奇妙な顔が……
写真に写ったのは攘夷派によって殺された外国人。日本人が、突如、日本人であるという理由で殺されたら恨みを持たれるはず。それは、外国人だって……。外国人に対抗する、という名目の二人は、そんな言葉にぞっとする。さらに、二人を驚かせるような現象が彼らをまっていて……。この段階で、何らかの仕込みがあるのは明らか。その上で炙り出される間宮の真相。何か、必殺〇〇人っぽいテイストが楽しかった。
3編目『心配性のサム・パッチ』。キリスト教への改宗が禁じられている中、鍼灸医の隆山が改宗した。病で、余命いくばくもない彼であるが、改宗に際し、自分が攘夷派であったことを告白して……。教会で下働きをしているサムこと、漂流人である仙太郎は、両者の間で板挟みになることに……
タイトルにあるように「心配性」とあるように、幼いころから要領が悪く、バカにされてきた仙太郎。同じく漂流された人間はひとかどの存在になる中、うだつの上がらない日々。そんな状況の中で……。自己評価が低く、タイトルの通り心配性。だからこそ、頑なになってしまう仙太郎。そんな彼に協力を求めるため、連太郎、攘夷派の駆け引きが始まる。
自己評価の低い仙太郎の心情の機微。そして、それを取り込んだ決め手、というのは見事の一言。その部分が印象に残るかな。
その上で、開国、それに対する反発というのが跋扈していた時代。その時代の雰囲気を見事に切り取った話だな、というのを感じる。その上でまだ、連太郎の正体とか明かされていない部分も多く、その辺りが今後、明かされていくだろう、ということに期待せざるを得ない。
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