著者:神鍵裕貴


「私、先輩のことが世界で一番――嫌いです!」 下駄箱に収められていた一通の手紙。浮かれながら、待ち合わせ場所の屋上に向かった霧崎陽奈斗を待っていたのは、美少女後輩からの思わぬ言葉。にもかかわらず、「付き合ってください」という後輩・音葉に呆れ、帰ろうとする陽奈斗だったが、ピースの欠けたような穴を持った音葉の姿を目の当たりにして……
粗筋だとあまり設定がよくわからないと思うので、最初に説明をすると……
音葉がかかっているのは「パズル病」と呼ばれる病(?) それは、ちょうど、身体の一部がパズルのピースのように欠けていく病で、それが欠けてしまうとそこには穴のようなものが開いてしまう。しかも、ピースが欠けると同時に、何か記憶が失われていく、という。しかし、その「穴」の存在を認知できるのは、一部の人間だけで、例えば病院に行って治療をしてもらう、というのも難しい。論理的に考えて、パズル病を認知できる医師がいる……という可能性が0ではないかもしれないが、それは文字通り奇跡のようなもの。だから、病院に行っても意味がない。そんな中で、その数少ない認知できる側の人間である陽奈斗は、音葉が記憶を失わないために行動を共にすることになり……という形の物語になる。
「あなたが世界一、嫌い」というのに、なぜか陽奈斗に同行を求める音葉。嫌いだからこそ、という言い訳をし、憎まれ口はたたくものの満更ではない様子の音葉。そして、陽奈斗を引き連れた音葉の奇妙な行動。映画に一緒に行く、とかならばともかく、陽奈斗がバイトをしているレンタルショップで漫画を借り、なぜか陽奈斗に「読め」と迫ってみたりとか不可解な行動がしばしば。それに一体、何があるのか? 一方で、音葉の身体のピースも少しずつ欠けていって……
言葉として、「パズル病」がどういうものなのかわかっていたはずなのに、いざ、記憶が失われた様子を見たときに感じる衝撃はかなりのものだし、当然、それが進行すれば音葉は陽奈斗のことを……。そんなタイムリミットが迫っていく焦燥感。一方で、なぜ普通の人に見えないパズル病を陽奈斗が認知できるのか? そんな疑問も浮かび上がってきたとき、音葉側の視点で何を目指していたのかが明らかになって……
こういう話を読みなれていれば、決して目新しい題材じゃないかもしれない。けれども、刻一刻とタイムリミットが迫ってくる緊迫感。その中で、音葉のやってきた行動の意味が明らかになった時の思いの強さ、というのが非常に鮮明。そして、傷つきはするが、それすらをも次の一歩へという結末の美しさが心地よい読後感だった。
No.6589

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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
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「私、先輩のことが世界で一番――嫌いです!」 下駄箱に収められていた一通の手紙。浮かれながら、待ち合わせ場所の屋上に向かった霧崎陽奈斗を待っていたのは、美少女後輩からの思わぬ言葉。にもかかわらず、「付き合ってください」という後輩・音葉に呆れ、帰ろうとする陽奈斗だったが、ピースの欠けたような穴を持った音葉の姿を目の当たりにして……
粗筋だとあまり設定がよくわからないと思うので、最初に説明をすると……
音葉がかかっているのは「パズル病」と呼ばれる病(?) それは、ちょうど、身体の一部がパズルのピースのように欠けていく病で、それが欠けてしまうとそこには穴のようなものが開いてしまう。しかも、ピースが欠けると同時に、何か記憶が失われていく、という。しかし、その「穴」の存在を認知できるのは、一部の人間だけで、例えば病院に行って治療をしてもらう、というのも難しい。論理的に考えて、パズル病を認知できる医師がいる……という可能性が0ではないかもしれないが、それは文字通り奇跡のようなもの。だから、病院に行っても意味がない。そんな中で、その数少ない認知できる側の人間である陽奈斗は、音葉が記憶を失わないために行動を共にすることになり……という形の物語になる。
「あなたが世界一、嫌い」というのに、なぜか陽奈斗に同行を求める音葉。嫌いだからこそ、という言い訳をし、憎まれ口はたたくものの満更ではない様子の音葉。そして、陽奈斗を引き連れた音葉の奇妙な行動。映画に一緒に行く、とかならばともかく、陽奈斗がバイトをしているレンタルショップで漫画を借り、なぜか陽奈斗に「読め」と迫ってみたりとか不可解な行動がしばしば。それに一体、何があるのか? 一方で、音葉の身体のピースも少しずつ欠けていって……
言葉として、「パズル病」がどういうものなのかわかっていたはずなのに、いざ、記憶が失われた様子を見たときに感じる衝撃はかなりのものだし、当然、それが進行すれば音葉は陽奈斗のことを……。そんなタイムリミットが迫っていく焦燥感。一方で、なぜ普通の人に見えないパズル病を陽奈斗が認知できるのか? そんな疑問も浮かび上がってきたとき、音葉側の視点で何を目指していたのかが明らかになって……
こういう話を読みなれていれば、決して目新しい題材じゃないかもしれない。けれども、刻一刻とタイムリミットが迫ってくる緊迫感。その中で、音葉のやってきた行動の意味が明らかになった時の思いの強さ、というのが非常に鮮明。そして、傷つきはするが、それすらをも次の一歩へという結末の美しさが心地よい読後感だった。
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