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正義の天秤

著者:大門剛明



200人もの弁護士を抱える大手法律事務所・師団坂法律事務所。しかし、創設者である佐伯を喪って以来、経営は悪化。中でも、佐伯が所属していた刑事事件を専門とする「ルーム1」は存続の危機にあった。そんな中、佐伯の娘・芽依は、元医師という異色の経歴を持つ凄腕弁護士・鷹野を海外から招聘する。だが、就任早々、鷹野は無能な弁護士を排除する、と言い出して……(『ブレーメンの弁護士たち』)
から始まる連作短編集。全6編を収録。『JUSTICE』の改題作。
物語は、冒頭に書いた1編目『ブレーメンの弁護士たち』で、ルーム1の弁護士の解雇などを賭けて、交差点に自動車で突っ込み、死傷者を出した、という事件の無罪を鷹野が勝ち取れたらいうことを聞け、という形で始まる。
その1編目は先に書いたような事件なのだけど、逮捕された男は、人材派遣会社をクビになり、その帰り道に事故を起こした。その事故の前、社長に対して激昂しており、むしゃくしゃしてスピードを出した結果……と言われているが、事故当時の記憶がないという。他の面々は、怒りで……と考える中、鷹野は……。この話は、素直なひっくり返しの話、という印象かな? 鷹野の元医師という経歴。事故の直前の出来事からの類推。そういった要素が上手く絡み合ってのひっくり返しが綺麗に決まっている。
その後は、大半の弁護士が辞めた後、残った面々が主役のエピソードに……
3編目『マアトの天秤』。ルーム1に残った弁護士・桐生が担当することになったのは、大手広告代理店社長の息子に対するストーカー殺人の疑いへの弁護。この息子は、過去にも悪事を働いていたが、そのたびに親の金と、その顧問弁護士の敏腕さによって罪を逃れてきた。その敏腕弁護士は、桐生にとっても因縁浅からぬ相手。病気により、弁護が出来なくなったことで、自分の元へ来たのだが、病に倒れる前、その弁護士は絶対的不利にも関わらず、無罪にする手がある、と言っていたのだという……
かつて、判事であった桐生。しかし、その強すぎる正義感から、公平さを欠いた、と言われた過去も。法律上の正しさと、自分の正義の違い。そんなものに悩んだ過去があり、そして、今回の事件。捜査手法に問題はあるが、しかし、被告が犯人であることも事実。その狭間の中で彼が導くのは……。弁護士の仕事と、しかし……というすべてをスッキリさせる解決策に、ある意味で笑ってしまった。
4編目『悪魔の代弁者』。元刑事という老弁護士・梅津。彼が担当することとなったのは、女性を殴り殺した、という男。男は、かつてやはり殺人で服役しており、被害者はその時の裁判員であった。そして、ブログに、その時のやり取りを面白おかしく書いていたことに腹を立てて抗議をした末に……というのだが……。こちらも1編目と同じように、梅津が元刑事、という経歴を持っていることが一つポイントになっている。元刑事だからこそ犯してしまったかつての過ち。そして、あまり育ちが良くないように見えた女性の本当の姿。それを丹念な聞き込みで知ったからこその、犯人が隠していたものの正体へ……という流れが面白かった。
という感じで、各編で、ルーム1に残った弁護士たちの背景などを掘り下げながら進み、最後に鷹野の過去の一片が見えたところでこの巻は終わり。そういう意味ではシリーズのプロローグ的な話と言えると思う。「ルーム1」と書いたけど、大手弁護士事務所だけに、他の部署であるルーム2,ルーム3などとの権力争いなども垣間見えたりして、で事務所全体を巡ってのアレコレとかが今後、出てくるだろうことも期待したいところ。続編も読む予定。

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Tag:小説感想大門剛明

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