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世界でいちばん透きとおった物語

著者:杉井光



大御所ミステリ作家の宮内彰吾が死んだ。宮内は、妻帯者でありながらも多くの女性と関係を持っていた。そんな宮内の隠し子である燈真は、腹違いの兄から「親父が死ぬ間際まで書いていた小説の原稿を知らないか」と連絡を受ける。父の小説を読みたいとも思わないが、金のため、燈真は父の遺稿探しをするのだったが……
ということで、主人公の燈真が、父の遺稿を探すために関係者などに話を聞いて……という物語。
まず言えるのは、この父親、相当なクズだ! ってことかな。冒頭の粗筋では、妻帯者ながら多くの女性と関係を持っていて、燈真はその隠し子である、という風に書いたのだけど、それでも例えば、その子供を認知して……というのならばまだわかる。ところが、燈真は宮内の子供として認知されていない私生児。会ったことすら一度もない。それどころか、亡き母の口座からは、逆に父へと送金がされていた、という形跡まで。さらに、腹違いの兄からの依頼というのも、腹違いの兄は横柄な感じで依頼をしてくるし……。そりゃ、燈真じゃなくとも、父に嫌悪感を覚えるし、その小説なんて読みたいとは思わない、というのは当然になるはず。
そんな最初からマイナスに振り切られたところからの調査開始。父が関係を持っていた女性であるとか、交流を持っていた出版関係者などから話を聞くことに。
息子である燈真の目から見て、最低の父親である宮内。けれども、なぜかそんな関係者は、悪い部分は認めつつも、そこまで悪くは言わない。仕方がない人、くらいのニュアンス。そういえば、燈真の母自身もそんな女性の一人。それぞれの語る父の人間性というのは、何となくわかってくるのだけど、でも、燈真の境遇から始まり、燈真視点で描かれる物語だからこそ、それで納得できるわけでもない。その作り方、というのがまずうまいな、と感じる。
そして、物語の目的である父の遺稿はどこにあるのか? という問題。そもそも、腹違いの兄が燈真に連絡をしてきたのは、母が校正を担当していたから。だから母に預けたのではないか? というもの。そして、そんな校正というところからわかるように、すでに原稿用紙600枚分程度が書き終えられているらしい、というのだが……
機械音痴で最後まで手書きだった、という父がなぜかパソコンに興味を持っていた。しかも、何かパソコンに期待しているものがあった。一方で、父がいた場所に残されていた手作りの奇妙な原稿用紙の正体。遺稿のタイトル『世界でいちばん透きとおった物語』の意味するものは? それぞれの謎が組み合わさっての、父が描こうとしていたもののすごさ、というのは素直に驚き。こんな面倒くさいこと、誰もやらないよ! という感じだし。
……で、それを知った後によくよく見ると……。あとはネタバレになるので書かない。でも、すごい仕掛けが施されている、っていうことだけ書いておく。

No.6600

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Tag:小説感想新潮文庫nex杉井光

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