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死亡遊戯で飯を食う。3

著者:鵜飼有志



「30の壁」を突破し、順調にクリア回数を伸ばしていく幽鬼。そんな中で迎えた44回目『クラウディビーチ』。孤島に集められたのは、クリア回数30を超える猛者を複数名そろえたプレイヤーたち。クリア条件なども不明なまま、孤島での時間を過ごすことになる幽鬼だったが、2日目の朝、かつて出会った忌まわしき殺人鬼を髣髴とさせるようなバラバラ遺体だった……
ここまで2巻までは、1巻に2つずつのゲームの模様が収録されていたのだけど、今回はこの『クラウディビーチ』のみ。ある意味、長編エピソードと言える。
今回のエピソードは、巻末に書かれている斜線堂有紀氏の「極めて変則的な特殊設定ミステリ」という言葉がピッタリくるような内容。
冒頭の粗筋でも書いたけど、ゲーム開始により孤島に集められたプレイヤーたち。普段であれば、クリア条件が示されるなりするのだが、今回はそういうものは一切なし。さらに、罠などが仕組まれているのか、と言えばそうでもなく、あるのはただ、プレイヤーたちが泊まるためのコテージだけ。プレイヤーも読者も、これが「デスゲーム」である、ということは承知しているが、何をすればよいのかがわからない。そして、わからないままに迎えたその夜、メンバー中で最もクリア回数の多いプレイヤーがバラバラになって発見される……
このゲームが一体、何なのか? しかも、最初に発見された遺体は、数分間の間になぜか姿を消してしまった。それは一体、何故なのか? ここだけを見れば、作中で幽鬼たちがこのゲームを名付けたように、本格ミステリによくある「クローズドサークル」ものの王道。勿論、クリア条件は何なのか? と共に、この事件を起こしたのが誰なのか? というのがクローズアップされていく。なのだけど、普通のミステリのように孤島での時間が経過していくからこそ、忘れていたこの作品ならではのルールにしてやられた、という感じになった。
と同時に、今回は、ここまで2巻までの積み重ね、というのを強く感じた。
幽鬼にとっても強い印象を残した「キャンドル・ウッド」での惨劇。それは、幽鬼が師と仰いでいた白士が挑んだ最後のゲーム。最初の遺体は、その「キャンドル・ウッド」の惨劇を引き起こした殺人鬼の手口そのもの。さらに、ゲームを繰り返し、その中で、知己のプレイヤーが出来ていく、ということは、そこに人間関係が出来上がっていく、ということを示す。その人間関係は、直接、顔を合わせたことがあるかどうか、という枠を超えて……。今巻のエピソードは、単発のデスゲームをどう攻略するのか? とは別に、ゲームの中で派閥争いとか、そういうものが形成されていく、という奥行きを見せた巻でもあったと感じられた。

No.6609

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Tag:小説感想MF文庫J鵜飼有志

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