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二階の王

著者:名梁和泉



東京の郊外で暮らす八州朋子には悩みがある。それは、30歳を超えた兄が部屋に引きこもり、家族にすら姿を見せない状態であること。両親も兄のことには触れない状態になっており、職場で知り合った男性・加東に心惹かれながらも、そのことを言えない状態にあった。一方、考古学者・砂原の残した予言書を元にした「悪因研」に所属する元ひきこもりの掛井。「悪因研」の面々は、嗅覚や視覚などで、悪因により邪悪な存在となった「悪果」を察知できるのだが、最近、その「悪果」となる人々が増加していることに気づく……
第22回日本ホラー小説大賞・優秀賞受賞作。
冒頭の粗筋でわかると思うのだけど、物語は朋子、掛井という二人の視点で綴られる。そして、それぞれの視点の状況で、作品のカラーが異なるな、と感じる。
朋子視点での物語は、ひきこもりの家族を支えた側の葛藤、というところだろうか。大学を卒業し、就職をした。そこまでは順調だった兄だが、その兄が仕事を辞め、自宅の、自室に引きこもってしまった。2階の部屋にこもり、家族にすら姿を現さない。部屋を出るときには、音楽を流し、家族が近寄らないように牽制。かつて、引きこもり対策の業者に連絡を取ったことはあるが、兄の様子は却って悪化。もはや、手のつけようのない状況になっている。両親だって今後、老いていくし、自分が結婚を、と言っても兄の存在は確実に障害になってしまう。そんな状況だからこその、朋子の兄に対する苛立ちというのはわかるし、作中でも綴られるように強引な業者が蔓延る原因にもなってしまう。その辺りの、社会問題などをうまく描いていると思う。さらに、職場には、元引きこもりの掛井がいるが、そんな彼に対する周囲の目は厳しい……。
一方の掛井。「悪因研」という組織に所属し、人間の姿をしているが邪悪な存在となってしまったものを探る日々。だが、だんだんとその「悪果」は増殖をし、周囲は「悪果」ばかりになっていってしまう。そして、その「悪因研」のメンバーに不可解なことが起こり、リーダー格の仰木に対しても何かを隠しているように思えてくる。そんな状況の中で、周辺では次々とトラブルが起こるようになり……
掛井がそうであったように、引きこもりなどを経験した存在などが、「悪果」を察知できる能力などを持つことが多い。朋子の元へ届く兄のメッセージ。どう考えても怪しい朋子の兄。しかし、「悪果」が感じられるようになり、それが悪化したからこそ家から出られなくなった、とも考えられる。兄は一体、どちら側なのか? そんな中、朋子も掛井のように、周囲の面々が「おかしなもの」のように見えてきて……。この辺りまでは面白かった。
ただ、この時点で、分量的には既に終盤。朋子、掛井ともに、同じ職場で働いているけど、それぞれの接点があまりないままに進んでしまう。最後の最後にようやく繋がる部分はあるのだけど、なんか無理やりまとめた印象。新人賞ではありがちなことなのだけど、ちょっとドタバタした感じで、広げた風呂敷をたたみ切れていないような印象を覚えた。

No.6610

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Tag:小説感想名梁和泉角川ホラー文庫

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