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勿忘草をさがして

著者:真紀涼介



一年前、自転車で転倒したときに助けてくれたお婆さんに会いたい。手がかりとなるのは、庭に咲いていた沈丁花と、お婆さんが発した「この子たちは皆男の子」という不思議な言葉だけ。恩人を探す航大は、そのお婆さんの家を探している中で知り合った美しい庭の持ち主である園原菊子と、その孫・拓海にその時の出来事を相談して……(『春の匂い』)
から始まる連作短編集。全5編を収録。
第32回鮎川哲也賞・優秀賞受賞作。
すごく優しい物語だな、という印象。物語は、植物に関係する謎が出てきて、それを園芸が好きな探偵役である拓海が解明する、という形。
冒頭の粗筋で書いた1編目は、主人公である航大が恩人の家を探す、という物語。ヒントとなるのは、庭に沈丁花が咲いていたこと。大きな木があったこと。そして、「男の子」という言葉。沈丁花は確かに、オスとメスという区別がある植物。でも、「あの子たち」という言い方をするだろうか? そんなところから、拓海はその家を言い当てて……。花の咲く時期、植物の種類、そして、ガーデニングをしている人の家……。ご近所だからこそのネットワークとしっかりとした知識。そんな、身近な距離感の謎解きが綺麗だった。
謎解きそのものの謎だと、『呪われた花壇』かな? 航大の友人の庭の花壇では、最近、あまり花の生育が良くない。亡き祖父が管理をしていたころは、しっかりと花が咲いていたのになぜ? 友人にとって、優しく尊敬の対象だった祖父だが、ある時、花壇にある花を厳しい表情で踏みつぶす場面を見てしまった。あれは一体、何だったのか? という謎があって……
なぜ、花壇で花の生育が悪くなってしまったのか? そして、そこに祖父の行動は関係があるのか? しっかりとした知識に基づく花の生育が悪くなった理由と、そこに追加したちょっぴりの想像。そのバランスが良い読後感に繋がっている。
自分は園芸とかの知識が全くないのだけど、この作品集の謎解きってある程度、知識のある人が読めば「これが原因だ」と絞ることができるんじゃないかな? という気はする。
ただ、それでも、話を聞いてくれるお喋り好きの菊子。ぶっきらぼうな物言いではあるが、面倒見がよい拓海。そんな二人に相談を持ち掛ける航大の真面目で優しい性格。さらに、その謎を解くことで、次の一歩へ進むことになる航大をはじめとする相談者の面々。謎解き自体は、弱めかもしれないけれども、キャラクターの魅力。優しい雰囲気。そういうもにあふれていて、読んでいて、すごく心地の良い作品集に仕上がっていると感じた。

No.6618

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Tag:小説感想真紀涼介鮎川哲也賞

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