著者:原浩


長野県で、妻、母、祖父と共に暮らす久喜雄二。太平洋戦争末期、パプワニューギニアで戦死した祖父の兄、雄二にとっての大伯父の日記が発見され、それが届く、というタイミングで彼の周囲に奇妙な出来事が起こり始める。久喜家の墓地から大伯父の名前が削り取られ、届けられた日記の最後を読んだ者たちに異変が……。これは、死者が引き起こしたものなのか?
第40回横溝正史ミステリ&ホラー大賞・大賞受賞作。
第39回から日本ホラー小説大賞が、横溝賞と一緒になり、初の大賞となったわけだけど、本作はホラーより、という感じだろうか。ただ、その中身はというと、思わぬ方向へと転がる様を楽しめた。
物語は、冒頭に書いたように、主人公・雄二の大伯父の残した日記が届く、というところから。墓碑の名前が削られる、という出来事はあったものの、誰かの悪質な悪戯としか思えなかった。そして、届いた日記に書かれていたのは、過酷な戦場での日々。日本からの出征。派兵されたニューギニアで戦況は悪化。生き残りをかけての決死の行軍。マラリアに罹患し、さらに水も食料もない中でのサバイバル生活。多くの仲間が死亡し、自らも……。そんな中で描かれる生への渇望。そして、それを読み終えたときにおこる異変……
一緒にその日記を読んでいた義弟が、なぜかその日記に「ヒクイドリヲ クウ ビミ ナリ」と書き込みをしてしまう。さらに、日記を見せに行った大伯父の戦友の家では火事が起こり、日記を持ってきてくれた新聞社の記者がマラリアになり、祖父もある日、失踪してしまう……。日記を読んだ者に不幸が訪れるのか? そんな疑惑が高まっていく。そんな中、妻の知人であり、そういう怪異などに詳しい北斗という男に相談をすることにして……
そこまでは、日記を読んだ、という共通点がありつつも、法則性やらが見えない不幸の連鎖という怖さ。ところが、その北斗の登場と、彼の語る推理によって、だんだんとそれが整理されていく。日記に書かれていた生への渇望。火喰鳥を食べられれば生き残れるかもしれないが、それが買わなかった無念さ。そういうものが執念として取り憑き、それが実際には起きていないことを読んだ者に書かせ、存在が肯定されてしまった。そんな説明がされることにより、物語の方向性が大分見えてくる。だが、そんな矢先、義弟が北斗に心を許すな、と言い始め……
生への執着から起こる怪異をおさめるためには……そんな思いで行動する雄二たち。だが、だんだんと侵食されていく恐怖。そして、その浸食を食い止めるアドバイザーである北斗は本当に信用できるのか? という疑心暗鬼。実際に、北斗と妻との間のことなどがあり、それが膨れ上がっていって……
前半の「何だかわからないが、恐ろしいことが起きている」という恐怖から、自分の見てきた事実が事実でなくなっていく恐怖と、それと同時進行で巻き上がる疑心暗鬼。物語のギアチェンジが巧みで、不気味さの質を変えながら進んでいく様に引き込まれた。
No.6627

にほんブログ村
この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。
長野県で、妻、母、祖父と共に暮らす久喜雄二。太平洋戦争末期、パプワニューギニアで戦死した祖父の兄、雄二にとっての大伯父の日記が発見され、それが届く、というタイミングで彼の周囲に奇妙な出来事が起こり始める。久喜家の墓地から大伯父の名前が削り取られ、届けられた日記の最後を読んだ者たちに異変が……。これは、死者が引き起こしたものなのか?
第40回横溝正史ミステリ&ホラー大賞・大賞受賞作。
第39回から日本ホラー小説大賞が、横溝賞と一緒になり、初の大賞となったわけだけど、本作はホラーより、という感じだろうか。ただ、その中身はというと、思わぬ方向へと転がる様を楽しめた。
物語は、冒頭に書いたように、主人公・雄二の大伯父の残した日記が届く、というところから。墓碑の名前が削られる、という出来事はあったものの、誰かの悪質な悪戯としか思えなかった。そして、届いた日記に書かれていたのは、過酷な戦場での日々。日本からの出征。派兵されたニューギニアで戦況は悪化。生き残りをかけての決死の行軍。マラリアに罹患し、さらに水も食料もない中でのサバイバル生活。多くの仲間が死亡し、自らも……。そんな中で描かれる生への渇望。そして、それを読み終えたときにおこる異変……
一緒にその日記を読んでいた義弟が、なぜかその日記に「ヒクイドリヲ クウ ビミ ナリ」と書き込みをしてしまう。さらに、日記を見せに行った大伯父の戦友の家では火事が起こり、日記を持ってきてくれた新聞社の記者がマラリアになり、祖父もある日、失踪してしまう……。日記を読んだ者に不幸が訪れるのか? そんな疑惑が高まっていく。そんな中、妻の知人であり、そういう怪異などに詳しい北斗という男に相談をすることにして……
そこまでは、日記を読んだ、という共通点がありつつも、法則性やらが見えない不幸の連鎖という怖さ。ところが、その北斗の登場と、彼の語る推理によって、だんだんとそれが整理されていく。日記に書かれていた生への渇望。火喰鳥を食べられれば生き残れるかもしれないが、それが買わなかった無念さ。そういうものが執念として取り憑き、それが実際には起きていないことを読んだ者に書かせ、存在が肯定されてしまった。そんな説明がされることにより、物語の方向性が大分見えてくる。だが、そんな矢先、義弟が北斗に心を許すな、と言い始め……
生への執着から起こる怪異をおさめるためには……そんな思いで行動する雄二たち。だが、だんだんと侵食されていく恐怖。そして、その浸食を食い止めるアドバイザーである北斗は本当に信用できるのか? という疑心暗鬼。実際に、北斗と妻との間のことなどがあり、それが膨れ上がっていって……
前半の「何だかわからないが、恐ろしいことが起きている」という恐怖から、自分の見てきた事実が事実でなくなっていく恐怖と、それと同時進行で巻き上がる疑心暗鬼。物語のギアチェンジが巧みで、不気味さの質を変えながら進んでいく様に引き込まれた。
No.6627

にほんブログ村
この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。
スポンサーサイト