著者:川瀬七緒


自殺を決意した夏美は、ネットで知り合った3人の男女と共に山へと向かう。練炭に火をつけ、自殺を実行……しようとしたその時、森の中から赤ちゃんの声が。「最後の人助け」と、その赤ちゃんを一時保護することにするのだが、母親を名乗る女性がSNSに挙げた動画により、4人は誘拐犯に仕立て上げられてしまう。動画は拡散され、素性は特定。「善意の」人々から追われることになってしまい……
読み終わって、よくよく考えると色々と強引に感じるところはあるのだけど、それを差し引いても面白かった。
まず面白かったのが、この4人の関係性。冒頭、自殺へと向かう4人は夏美をして「最悪の組み合わせ」。仕切りたがり屋で、でも、小心者なのが丸わかりのおっさん・長谷部。やたらと着飾った老婆・千代子。何か斜に構えた少年・陸斗。互いのことなんてどうでもよいはずなのに、自己紹介をさせたがってきたりと、鬱陶しい。そしてそんな流れから、森に捨てられた赤ちゃんを拾うことになる。
SNSで拡散された動画では、4人に誘拐された、ということに。しかし、4人が見たものは真逆。一人の女性が森の奥に赤ちゃんを置き去りにした、という場面。しかも、置き去りにした女性と、動画で「母親」を名乗る女性は別人。置き去りにした女性は、何かの組織の人間で、その指示によって置き去りにしたことは明らか。そして、その動画により、どこにでも「敵」がいる状況での逃亡劇と、犯人を探る戦いが始まる。
SNSによって、自分の顔だけでなく、素性であるとか、そういうものもすぐに特定されてしまう恐怖。警察官のように、わかりやすい格好をしているわけではない。だからこそ、恐怖である、のは間違いない。その辺りの恐ろしさは上手く描かれている。その一方で、その反撃として置き去りにした実行犯の女を「共犯者」に仕立て上げ、その結果として情報を搾り取る操り人形に仕立て上げていくというやり方など、SNSを題材にして、その反撃方法も上手い。
そして、何よりも面白いのは、先ほど「最悪」と書いた4人の関係性がだんだんと変わっていく様。冷静な分析力を持つ陸斗と、小狡い夏美の頭で、追い詰められた状況を打破する。赤ちゃんを抱えている中、その赤ちゃんの扱いに長けた千代子の知恵。事業に失敗したとはいえ、社長という立場で社会をよく知っている長谷部。それぞれが、他者を認め、自分の武器を発揮していく様。さらに、特にいくらでもやり直しが効くであろう陸斗を……という思いを強めていく様は素直に楽しい。
一方で、「敵」の正体が何なのか? 置き去りにした様子を見ても、相手は組織的に殺人などをしているのは間違いない。しかし、実行犯の女の迂闊さとかを見るに、暴力団などの組織とも思えない。その組織は一体、何なのか?
まぁ、その組織のやっていることの酷さは、シャレにならないし、(ここまでではないが)表向きとは別に悪事をしている組織とかがあるのは事実。ただ、そういう「裏」の仕事をするなら、それなりの人間を使うんじゃないか、という気はする。そして、主人公である夏美の正体。ある程度は判明するのだけど、ある程度止まり。なんか中途半端な感じが残った。というか、物語の決着をつけるための駒として使われた感がしてしまった。そういう意味で、色々と不満が残る部分はあった。
でも、最初に書いたように、それを差し引いても、テンポやキャラクターなどが良くて、面白く読むことができた。
No.6633

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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
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自殺を決意した夏美は、ネットで知り合った3人の男女と共に山へと向かう。練炭に火をつけ、自殺を実行……しようとしたその時、森の中から赤ちゃんの声が。「最後の人助け」と、その赤ちゃんを一時保護することにするのだが、母親を名乗る女性がSNSに挙げた動画により、4人は誘拐犯に仕立て上げられてしまう。動画は拡散され、素性は特定。「善意の」人々から追われることになってしまい……
読み終わって、よくよく考えると色々と強引に感じるところはあるのだけど、それを差し引いても面白かった。
まず面白かったのが、この4人の関係性。冒頭、自殺へと向かう4人は夏美をして「最悪の組み合わせ」。仕切りたがり屋で、でも、小心者なのが丸わかりのおっさん・長谷部。やたらと着飾った老婆・千代子。何か斜に構えた少年・陸斗。互いのことなんてどうでもよいはずなのに、自己紹介をさせたがってきたりと、鬱陶しい。そしてそんな流れから、森に捨てられた赤ちゃんを拾うことになる。
SNSで拡散された動画では、4人に誘拐された、ということに。しかし、4人が見たものは真逆。一人の女性が森の奥に赤ちゃんを置き去りにした、という場面。しかも、置き去りにした女性と、動画で「母親」を名乗る女性は別人。置き去りにした女性は、何かの組織の人間で、その指示によって置き去りにしたことは明らか。そして、その動画により、どこにでも「敵」がいる状況での逃亡劇と、犯人を探る戦いが始まる。
SNSによって、自分の顔だけでなく、素性であるとか、そういうものもすぐに特定されてしまう恐怖。警察官のように、わかりやすい格好をしているわけではない。だからこそ、恐怖である、のは間違いない。その辺りの恐ろしさは上手く描かれている。その一方で、その反撃として置き去りにした実行犯の女を「共犯者」に仕立て上げ、その結果として情報を搾り取る操り人形に仕立て上げていくというやり方など、SNSを題材にして、その反撃方法も上手い。
そして、何よりも面白いのは、先ほど「最悪」と書いた4人の関係性がだんだんと変わっていく様。冷静な分析力を持つ陸斗と、小狡い夏美の頭で、追い詰められた状況を打破する。赤ちゃんを抱えている中、その赤ちゃんの扱いに長けた千代子の知恵。事業に失敗したとはいえ、社長という立場で社会をよく知っている長谷部。それぞれが、他者を認め、自分の武器を発揮していく様。さらに、特にいくらでもやり直しが効くであろう陸斗を……という思いを強めていく様は素直に楽しい。
一方で、「敵」の正体が何なのか? 置き去りにした様子を見ても、相手は組織的に殺人などをしているのは間違いない。しかし、実行犯の女の迂闊さとかを見るに、暴力団などの組織とも思えない。その組織は一体、何なのか?
まぁ、その組織のやっていることの酷さは、シャレにならないし、(ここまでではないが)表向きとは別に悪事をしている組織とかがあるのは事実。ただ、そういう「裏」の仕事をするなら、それなりの人間を使うんじゃないか、という気はする。そして、主人公である夏美の正体。ある程度は判明するのだけど、ある程度止まり。なんか中途半端な感じが残った。というか、物語の決着をつけるための駒として使われた感がしてしまった。そういう意味で、色々と不満が残る部分はあった。
でも、最初に書いたように、それを差し引いても、テンポやキャラクターなどが良くて、面白く読むことができた。
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