著者:嶺里俊介


中堅ホラー作家・鈴木独行が、身近で起きた奇妙な出来事についてつづった……という形式で綴られる連作短編集シリーズ第2作。前後編の話を含めて全9編を収録。
前作もそうなのだけど、ホラー作品というよりも、奇妙な話などを含めつつも、著者(?)の身近で起こったことなどを綴ったエッセイ的な味わいを押し出した作品が多い。ただ、前作『だいたい本当の奇妙な話』よりは、ホラーに寄せてきたような印象を受ける。
1編目『海に棲むもの』。海に纏わる話を綴った物語。中学生のころ、沖縄・石垣島へと旅行へ行った著者。これまでに見たことのない生き物に夢中になっていた私は、遊泳禁止の浜へと降り立ってしまう。そこに毒をもつ生物などもいたのだが、そんな中に……。訳の分からない生き物との遭遇。それ自体は、確かにホラーのような部分もある。けれども、そんな思い出と共に地元へ戻り、時が経って再び行った時のショック……。奇妙な生き物の印象と、それと再会することはできないだろう、という最後の諦観の落差というのがより印象に残るエピソードだった。
純粋に嫌な話という印象なのは『五衆』。学生時代の友人と再会した私。卒業後は父親の会社を継ぎ経営をしていたが、父の死後、経営は悪化。投資詐欺などに引っ掛かり、会社は倒産。妻子も失い、ホームレス生活になってしまった。だが、そんなとき……。「願いをかなえてくれる」怪異。その存在に出会ったことで、彼は社会復帰が出来た……と思ったのだが……。怪異の存在もさることながら、その願いのかなえ方、そこに含まれている悪意。その悪意の効き方が強烈で印象に残る話。
『最後の仕事』。中学時代、学校帰りの山手線。その電車で耳にしたアナウンスは、通常の「次は〇〇」というものではなく、「ここにはこのような施設があり……」という周辺情報を交えたもの。アナウンスをするのは、この日をもって定年を迎える車掌。その思いを込めて……だという……。この話も最後にちょっとしたひっくり返しがあるのだけど、それよりも、現在ではそういうこともできないであろうこと。それが許されていた古き日の思い出。そんな情緒というのを強く感じされる話になっている。
『逝きかけた情景』。あとがきによると、これは著者(鈴木独行ではなくて、嶺里氏)が経験したことを元にしているらしいのだけど……日常生活に欠かせないけど、でも、ある意味では一番、リスクの高い風呂場というのは、こういうこともあるのだろうと感じる。怪異話を絡めてはいるけど、それよりも、実体験からくる怖さっていうのがあったように思う。
……でも、そこに自身のその時の傷痕写真を載せたら、編集者が言うようにドン引きしていたと思う。編集者さん、ナイス判断!
前作と比べて、怪異を交えた話とかが多くなった感じはするけど、昭和~平成くらいの思い出話とかも興味深く読むことができた。
No.6638

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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
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中堅ホラー作家・鈴木独行が、身近で起きた奇妙な出来事についてつづった……という形式で綴られる連作短編集シリーズ第2作。前後編の話を含めて全9編を収録。
前作もそうなのだけど、ホラー作品というよりも、奇妙な話などを含めつつも、著者(?)の身近で起こったことなどを綴ったエッセイ的な味わいを押し出した作品が多い。ただ、前作『だいたい本当の奇妙な話』よりは、ホラーに寄せてきたような印象を受ける。
1編目『海に棲むもの』。海に纏わる話を綴った物語。中学生のころ、沖縄・石垣島へと旅行へ行った著者。これまでに見たことのない生き物に夢中になっていた私は、遊泳禁止の浜へと降り立ってしまう。そこに毒をもつ生物などもいたのだが、そんな中に……。訳の分からない生き物との遭遇。それ自体は、確かにホラーのような部分もある。けれども、そんな思い出と共に地元へ戻り、時が経って再び行った時のショック……。奇妙な生き物の印象と、それと再会することはできないだろう、という最後の諦観の落差というのがより印象に残るエピソードだった。
純粋に嫌な話という印象なのは『五衆』。学生時代の友人と再会した私。卒業後は父親の会社を継ぎ経営をしていたが、父の死後、経営は悪化。投資詐欺などに引っ掛かり、会社は倒産。妻子も失い、ホームレス生活になってしまった。だが、そんなとき……。「願いをかなえてくれる」怪異。その存在に出会ったことで、彼は社会復帰が出来た……と思ったのだが……。怪異の存在もさることながら、その願いのかなえ方、そこに含まれている悪意。その悪意の効き方が強烈で印象に残る話。
『最後の仕事』。中学時代、学校帰りの山手線。その電車で耳にしたアナウンスは、通常の「次は〇〇」というものではなく、「ここにはこのような施設があり……」という周辺情報を交えたもの。アナウンスをするのは、この日をもって定年を迎える車掌。その思いを込めて……だという……。この話も最後にちょっとしたひっくり返しがあるのだけど、それよりも、現在ではそういうこともできないであろうこと。それが許されていた古き日の思い出。そんな情緒というのを強く感じされる話になっている。
『逝きかけた情景』。あとがきによると、これは著者(鈴木独行ではなくて、嶺里氏)が経験したことを元にしているらしいのだけど……日常生活に欠かせないけど、でも、ある意味では一番、リスクの高い風呂場というのは、こういうこともあるのだろうと感じる。怪異話を絡めてはいるけど、それよりも、実体験からくる怖さっていうのがあったように思う。
……でも、そこに自身のその時の傷痕写真を載せたら、編集者が言うようにドン引きしていたと思う。編集者さん、ナイス判断!
前作と比べて、怪異を交えた話とかが多くなった感じはするけど、昭和~平成くらいの思い出話とかも興味深く読むことができた。
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