著者:塔山郁


新宿で50年以上続く漢方薬局・てんぐさ堂。ここには今日も、様々な悩みを抱えた患者たちがやってくる。そんな患者たちに対し、薬剤師の宇月はある忠告をして……
『毒島花織』シリーズにも登場したてんぐさ堂を舞台にした連作短編集。一応、スピンオフシリーズということになるのかな?
1編目『漢方薬入門』。新人時代に担当した作家から呼び出しを受けた編集者の加納。健康のルポタージュの案があるから見てほしい、ということだったが、そこで示されたのは大麻の有用性を示したもの、というとんでもないもの。原稿を預かるだけ預かったが、作家はしつこく追いかけてくる。作家をまくため、前から気になっていたてんぐさ堂へと入ってみるのだが……
物語の導入編と言えるエピソード。タイトルのように、文字通りに漢方とは何か? というような説明がなされる話。そんな丁寧な説明の末に……という形になるのだけど、謎解き要素は極めて弱い。その一方で、宇月がてんぐさ堂で、どういう存在なのか? というような部分も含めて、完全な説明の話のように感じた。
2編目『夏梅の実る頃』。てんぐさ堂の常連である元教師・京子。彼女は、なぜかどんぐりに対してトラウマを持っていた。かつて、同級生の男子からどんぐりをプレゼントされたが、そこから出てきた大量の虫を見てしまい、それが忘れられないのだという。その男子は京子に対する意地悪でプレゼントをしたのか? それとも?
そんな過去のエピソードの真意を宇月が推理する話。勿論、小さな男子にありがちな意地悪、でもおかしくはないのだけど、それをした男子はそういうことをするようなタイプとは思えなかったという。そして、当時の京子の家族の状況などから考えて……。京子の家の事情などから、ただの意地悪として行ったわけではない。でも、幼い知識で、ということで結果として意地悪のように思えるものになってしまった……というすれ違いというのは上手くまとまっていたと思う。ただ、その後に、でも……というオチは、京子視点で物語が綴られるだけに、すごくモヤモヤとした結末になってしまうのだが……
3編目『ノーテイスト・ノーライフ』。テレビ番組でグルメリポーターをしている友梨亜。しかし、新型コロナの感染症で、味などが感じられなくなってしまった。漢方薬でそれが改善した、という噂を耳にして、一縷の望みをかけてんぐさ堂を訪れるのだが、改善にも時間がかかるという説明に苦慮する。そんなとき、友人からもらった「世界一不味い菓子」こと、サルミアッキを口にすると……
この話が一番、すっきりと解決した話じゃないかと思う。味覚がほとんど感じられない友梨亜。だからこそ、味を感じることができるサルミアッキが気に入るのだが、食べているうちに体調を崩してしまう。なぜ、そうなってしまったのか? サルミアッキという菓子の成分などから導き出す結論とか、薬学とかの知識あってこそで、綺麗にまとまっている。
どうしても同著者の『毒島花織』シリーズと比較してしまう本作。本作の謎の方が、ある意味ではひねくれた部分がある分、すっきりとしない結末の話が多い印象。しかも、てんぐさ堂の店主で、薬学部を卒業したものの、国家試験に合格できずに挫折した店主・奈津美の話とかが入ることで、ややメインが見えづらくなったように感じた。これは、作品の色分け、という目的があったのかも知れないけれども……
No.6758

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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
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『毒島花織』シリーズにも登場したてんぐさ堂を舞台にした連作短編集。一応、スピンオフシリーズということになるのかな?
1編目『漢方薬入門』。新人時代に担当した作家から呼び出しを受けた編集者の加納。健康のルポタージュの案があるから見てほしい、ということだったが、そこで示されたのは大麻の有用性を示したもの、というとんでもないもの。原稿を預かるだけ預かったが、作家はしつこく追いかけてくる。作家をまくため、前から気になっていたてんぐさ堂へと入ってみるのだが……
物語の導入編と言えるエピソード。タイトルのように、文字通りに漢方とは何か? というような説明がなされる話。そんな丁寧な説明の末に……という形になるのだけど、謎解き要素は極めて弱い。その一方で、宇月がてんぐさ堂で、どういう存在なのか? というような部分も含めて、完全な説明の話のように感じた。
2編目『夏梅の実る頃』。てんぐさ堂の常連である元教師・京子。彼女は、なぜかどんぐりに対してトラウマを持っていた。かつて、同級生の男子からどんぐりをプレゼントされたが、そこから出てきた大量の虫を見てしまい、それが忘れられないのだという。その男子は京子に対する意地悪でプレゼントをしたのか? それとも?
そんな過去のエピソードの真意を宇月が推理する話。勿論、小さな男子にありがちな意地悪、でもおかしくはないのだけど、それをした男子はそういうことをするようなタイプとは思えなかったという。そして、当時の京子の家族の状況などから考えて……。京子の家の事情などから、ただの意地悪として行ったわけではない。でも、幼い知識で、ということで結果として意地悪のように思えるものになってしまった……というすれ違いというのは上手くまとまっていたと思う。ただ、その後に、でも……というオチは、京子視点で物語が綴られるだけに、すごくモヤモヤとした結末になってしまうのだが……
3編目『ノーテイスト・ノーライフ』。テレビ番組でグルメリポーターをしている友梨亜。しかし、新型コロナの感染症で、味などが感じられなくなってしまった。漢方薬でそれが改善した、という噂を耳にして、一縷の望みをかけてんぐさ堂を訪れるのだが、改善にも時間がかかるという説明に苦慮する。そんなとき、友人からもらった「世界一不味い菓子」こと、サルミアッキを口にすると……
この話が一番、すっきりと解決した話じゃないかと思う。味覚がほとんど感じられない友梨亜。だからこそ、味を感じることができるサルミアッキが気に入るのだが、食べているうちに体調を崩してしまう。なぜ、そうなってしまったのか? サルミアッキという菓子の成分などから導き出す結論とか、薬学とかの知識あってこそで、綺麗にまとまっている。
どうしても同著者の『毒島花織』シリーズと比較してしまう本作。本作の謎の方が、ある意味ではひねくれた部分がある分、すっきりとしない結末の話が多い印象。しかも、てんぐさ堂の店主で、薬学部を卒業したものの、国家試験に合格できずに挫折した店主・奈津美の話とかが入ることで、ややメインが見えづらくなったように感じた。これは、作品の色分け、という目的があったのかも知れないけれども……
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