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小説家と夜の境界

著者:山白朝子



小説家である「私」が知っている小説家に纏わる話を語る……という形式で綴られる短編集。全7編を収録。
ホラー(?)作品の雑誌である『怪と幽』に掲載されていたもの、ということでジャンルとしてはホラー作品ということにしても良いのだとは思うけど、怪異とか、そういうものよりも、比較的現実的な世界観の中での奇妙な話、嫌な話を集めた作品集という印象。
1編目『墓場の小説家』。学園ミステリでデビューした作家・O氏。ミステリーのトリックなどは平凡だが、実感を伴った描写が人気で、根強いファンを獲得している作家。しかし、彼はその描写を描くためには実際に経験をしなければ……という人物だった。そんな彼が、恋愛小説、そして、ホラー小説を描くことになって……
小説を描くにあたってリアリティというのは、当然、必要になること。だからこそ、その作家の経歴などが武器になる、というのは往々にしてあること。医療を題材にした作品だと医師が、とか、法廷ミステリだと弁護士などが……なんていうのは普通。でも、それを突き詰めたら? 恋愛小説を描くため、妻を……とか、やっていることは異常。勿論、その結果、生活は破綻していって……。O氏が最期に何を見たのか? それは不明な形で終わるのだけど、そんな形で執筆をしていたら……と思わされる話ではある。
非現実的なことはなく、むしろ、社会問題などを反映しているようにも思えるのが『 キ 』。高校生ながら凄まじいほどにキツい残虐描写を描いた小説でデビューをしたK氏。パーティーで顔を合わせた実際のK氏は礼儀正しい好青年。文武両道で、家族は勿論、教員、生徒たちにも慕われている彼だったが……
普段の人間性と、描く作品は別物。仮に、そういうジャンルの作品が好きだったとしても、だからと言って問題になるわけでもない。しかし、そんな当たり前のことを忘れ、K氏に対して「そんなものを描くな」と迫る周囲の面々。さらには、出版社などが悪い、などと言いだし……。なんか、青少年健全育成とか、ああいう活動をしている人々の姿勢とか、そういうのを頭に浮かべずにはいられなかった。自由で、健康的な、などとお題目を掲げながら、しかし、気に入らないことをすると徹底的にたたく。周囲の環境が悪い、とか、そういう形を取った「正義」として……。そんな周囲の空気に振り回された「現在の」K氏が辛すぎる……
物語に登場する作家たちは、ちょっと極端な設定になっている人物が多いと思う。ただ、そんな中にも、それぞれの作品作りの方法論とか、その中の困難とかは色々とあるのだろうというのは感じられた。極端な設定、キャラクターによって、そういうところをオブラートに包んだのかな? という風に感じられた。

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Tag:小説感想山白朝子

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