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コメンテーター

著者:奥田英朗



伊良部シリーズ第4作。全5編を収録。
って、前作『町長選挙』を読んだのが、08年。刊行されたのが06年なので、実に15年ぶりに読んだシリーズ新刊ということになる。ただ、今回はあまり奇妙な治療(?)はしていない印象。
1編目の表題作。コロナ禍の時期、ワイドショー番組スタッフの圭介は、上司から視聴率を取れるコメンテーターを呼んで来い、という無茶ぶりをされる。画面映えする美人医師を、ということだったが、出身大学の伝手で呼ぶことになってしまったのは、伊良部で……
これって、完全に治療、ではない。別に伊良部を呼んだわけではないのに、一人、乗り気になってしまった伊良部は出演を信じて疑わない。いざ、出演をしてみれば、自粛などが騒がれる中で、元も子もないようなぶっちゃけトークを展開してしまう。さらには、リモート出演だったのに、看護師が映ってしまう事故まで……。でも、なぜか視聴率は上がっていて……
「自粛、自粛と言うけど、外に行くやつは、外に遊びに行くよね」とか、確かにその通りではあるんだよな。決して褒められた話ではないけど、そこからスタートして考えた方が良いとかって受け取れば、他の方策とかも出てくるのかな? なんてこともふと思った。その中で、視聴率が上がった理由は、インディーズバンドのメンバーとして人気のあるマユミだったとか、その辺りは面白かった。
2編目『ラジオ体操第2』。不満があっても気が弱く言い返せない。そんなストレスからか、パニック障害になってしまった克己。治療のために訪れた病院で、伊良部に勧められた治療は……。不満などをはっきりと言う練習をする。これ、言うは易し、行うは難し、だよな。問題行動を起こしている相手に注意する、とか、確かに言われて本当に殴ってくるような奴はほとんどいない、ってのは事実だと思う。思うけど、でもねぇ……。そんなことをけしかけられた末、問題行動をしている相手に克己が取ったのは……。明らかに変な行動になってしまっているのだけど、なんかすっきりとした気分になるのはなぜだろう? ヘンテコな治療方法と、決してそれ自体が上手くいったわけではないのだけど、ちょっと気持ちが軽くなる。このシリーズっぽさを一番、感じた話。
4編目『ピアノ・レッスン』。ピアニストとして全国を駆け回る友香。絶対に遅刻しないように、とか、そういう気負いからか、閉所恐怖症になってしまい、伊良部の元へ向かうのだが……。こちらも「真面目過ぎ」「芸術家なんて、わがままでもいいじゃないか」とか、言われながらわざと閉所に入って……なんていう治療(?)をされるのだが……。1編目もそうなのだけど、このエピソードでも実は大活躍なマユミ。過去のシリーズではなんかよくわからなかったマユミだったけど、今作は結構、その掘り下げがされたように感じる。
久々のシリーズ。流石に、過去のシリーズは大分忘れていたけど、「ちょっとカラーが違うような」と、「こんな感じだった」というのを思い出しながらの読書になった。

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Tag:小説感想奥田英朗

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