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モノマネ芸人、死体を埋める

著者:藤崎翔



モノマネ芸人・マネ下竜司こと、関野浩樹は、往年の大投手・竹下竜司のモノマネ一本で生計を立てている。現役時代は気の荒さから恐れられた竹下だが、そんな竹下に気に入られ、日常でも付き合いのある関係。酒の相手をすれば小遣いまでもらっている。だが、そんなある日、竹下が人を殺してしまう。竹下が逮捕されれば、そのモノマネで暮らしている自分もまた失業! 窮地に陥った浩樹は竹下の殺した遺体の隠蔽工作を手伝うことになって……
ということで、モノマネ芸人である浩樹が、そのご本人である竹下と共に竹下の犯した罪を隠蔽しようと奮闘する物語。
この作品、基本的には浩樹と竹下視点で綴られるのだけど、なんか、その二人の心情と言うのが印象に残る。
犯行の隠蔽を図る浩樹。冒頭の粗筋では、竹下に気に入られて……と書いたのだけど、じゃあ対等な友人関係か? と問われればちょっと違った関係。モノマネをさせてもらっている、というある意味の引け目があるし、気性の荒さを知っているだけに怖いと思う気持ちもある。勿論、酒の相手をすれば数万円くらいの金がもらえるから、急な呼び出しにも応じる、という打算もある。そして、その気の荒さから、周囲から人が離れてしまった竹下に同情する気持ちも……。そして、いざ、犯行の手伝いをすると、竹下の短慮。さらには竹下がやったことなのに、ほとんどを自分にさせることが腹立たしくも感じる。そんな気持ちが複雑に絡み合う中で、浩樹の態度も色々と変わり……
一方の竹下。かつては、大投手として数々の名声を手にした彼だが、その気の荒さなどもあり引退後はコーチなどのオファーもなく、人も離れてしまった。不摂生が祟り、身体もボロボロ。見た目もかつての姿とは全く違う太った姿に。そんな自分のモノマネをする浩樹が、金目当てとかもわかっているが、それでも呼べば来てくれることが嬉しい。
物語の中心にあるのは間違いなく犯罪だし、綺麗ごとだけじゃなく、打算も絡んだ関係性なのは確か。でも、どちらも憎めないキャラクターで、そんな二人のやりとりが面白い。どちらも小心者で、でも、ちゃんと相手を思う気持ちも持っていて……。なんか、共感できる部分がある。
モノマネ芸人、特に「この人のネタだけ」っていうような人の、自分の将来に対する不安……普段、あまり考えたことがないけど、これって芸能人と呼ばれる人の中でも強いんだろうな、なんていうのも思う。この辺りは、元お笑い芸人という著者の経歴があったからこそ描けたことなのだろうな。そして、当然のことながら、そんな二人の周囲に捜査の手が。絶体絶命の危機を、浩樹の機転で一度はかわすものの……
周囲の面々の裏の顔……なんていうブラックなオチの部分は良いのだけど、この竹下、浩樹の犯行がバレる理由を後出し的に描いたのは、ちょっとすっきりしないかな? その前の浩樹の機転。これがなかなかの力技なだけに、そこがきっかけになるのかな? と思ったので。
ただ、それを差し引いても、浩樹と竹下の関係性。その中での様々な想い、というのは楽しむことができた。

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Tag:小説感想藤崎翔

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