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岩鼠の城 定廻り同心 新九郎、時を超える

著者:山本巧次



BOOK☆WALKER

信長による天下を目前とした天正6年にタイムスリップし、散々な目にあった江戸南町奉行所の同心・瀬波新九郎。ようやく元の時代へと戻り、同心としての仕事に精を出していたのだが、不忍池で溺れた少年を助けようとして、再び時を超えてしまう! 行き着いた先は、豊臣政権下の京都・伏見。秀次の謀反騒動の中、かつて、青野城で世話になった奈津姫は嫁ぎ先から離縁。さらに、彼女に仕えていた左馬介が秀吉の側衆を殺害した下手人として囚われていることを知り……
『鷹の城』の続編となる作品。
『鷹の城』が、文庫化となるにあたって『定廻り同心 新九郎、時を超える』という本作と同じタイトルがつけられて……ということなので、これでシリーズ化ということになるのだろう。
ただ、前作は敵軍に囲まれて孤立した城の中で起きた殺人を解決する、というクローズドサークルものだったけど、今回は普通の武家屋敷の中で起きた事件。そして、そこには3人の客人がおり、そんな中、側衆に対して抗議のために訪れた左馬介が下手人として捕縛された。勿論、左馬介は無罪を訴えるし、新九郎の知っている歴史でも、彼は後の世に生きている。つまり、そのままでは歴史が改変されてしまう。そのため、左馬介の無罪を証明しなければならないことに。
武家屋敷に居合わせた3人の客、囚われの身となった左馬介からの聞き込み。その中で、それぞれの位置関係や、その目的などを探っていく新九郎。その中で、尼寺で客人として扱われている奈津姫とも再会し、事件について語り合っていく。だが、そんな左馬介を巡って刺客なども現れる。
武家屋敷での殺人は、どちらかというとフーダニット、ハウダニットと言うよりのホワイダニットに重きを置いた感じかな? ただ、物語の舞台を豊臣政権下という時代にした意味がそこにあるのだろう。それまで、実力で戦争をして、その支配地域の拡大を図っていた各勢力。しかし、豊臣の世になって、そのやり方は出来なくなった。その一方で、秀次の自刃など、お家取り潰しなどの形で領地を拡大することはできる。また、絶大な権力を握りながらも判断力などに衰えを感じさせる秀吉の世が続くのか? という疑念。そんな状況の中で渦巻く権謀術数。動機と言うのをメインにしたことで、そんな時代の空気感を強く味わうことができた。
それと、やはり、この作品の味は前作で一緒に謎を解いた奈津姫との関係だろう。前作では、じゃじゃ馬娘と言われつつ、しかし、論理的に物事を考える姿を見せていた奈津姫。それから時代が過ぎ、30代となった奈津姫と、当時と同じ姿で現れた新九郎。懐かしさと、でも、一方だけが老いていく、という寂しさ。そんな両者を兼ねそろえたやり取りが印象深かった。

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Tag:小説感想山本巧次

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