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可燃物

著者:米澤穂信



BOOK☆WALKER

余計なことは喋らない。上司からは疎まれ、部下からも良い上司だとは思われていない。しかし、捜査能力は本物。そんな群馬県警の刑事・葛を主人公とした連作短編集。全5編を収録。
著者の作品は、一応、単行本ですべてを読んでいるはずだけど、「探偵」とか、「記者」みたいな主人公作品はあったけど、ガッツリと警察官が主人公と言う作品は初じゃないかな? もっとも、作品としてはそれぞれ有力な容疑者が最初から分かっていて、というような話が多いけれども。
1編目『崖の下』。スキー場で行方不明になっていた男が頸動脈を刺された遺体となって発見された。その場所には一緒に行方不明になっていた男がおり、その男による蛮行であると思われるが、肝心の凶器がない。男が発見された場所の周辺に足跡などはなく、協力者が凶器を持ち去ったことも考えられない。犯人は何で事件を起こしたのか?
これは、完全に「凶器は何か?」というところにクローズアップした物語。遺体の発見場所からして、犯人は明らかで移動していないことも明らかなのに……という状況から。解剖医から言われる凶器の形状。遺体にあったわずかな痕跡。犯人の怪我の具合。そういうものから絞り込んで……。加害者と被害者の関係は、学生時代からの付き合いだけど実は……そんな歪な人間関係。その両者が上手く組み合わさった末の、思わぬ凶行。そう感じさせる話だった。
2編目『ねむけ』。県内で起きた強盗事件。容疑者として浮かび上がったのは、過去にも同様の事件を起こしていた男。警察は車を運転する男をマークしていたが、道路工事によって距離が離れた間に事故を起こしていた。目撃者は、男の車が青信号で走り出したところで衝突された、というのだが……
深夜の事故でありながら、なぜか次々と発見される目撃者。昼間の事故であったとしても、目撃者がいない、名乗り出ないのは普通であるのに。そんな不自然な状況。そして、そんな彼らが、男が信号を守っていたというのは何故か? これは、心理学の話とかで出てくるものだよな、という印象。深夜の時間と言う設定と、ちょっとした情報で操られてしまう証言。その辺りの舞台設定が上手い。
4編目の表題作『可燃物』。住宅街で次々と起きる放火事件。重大な結果には繋がっていないが、このままエスカレートしたら……パトロールを続ける中、なぜか犯行はぴたりと止まってしまう。そんな中、住宅街で不審な行動をとる人物が目撃される。果たして……
これは完全にホワイダニットの物語かな? 立て続けに起きてきた放火。それがなぜピタリと止んでしまったのか? 被害状況から、事件が起きた日がどういう日だったのか? そして、事件の目撃者が撮影した事件時の映像の、思わぬ部分から判明するその目的。犯人は明らかに狂気に取り憑かれているのだけど、そこに至るまでの丁寧な描写が印象的だった。
各編、長いもので60頁程度と決して分量の多い作品ではないのだけど、それぞれが非常に濃密。そんな短編集だった。

No.6838

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Tag:小説感想米澤穂信

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